How UI Benefits Affect Employment, Continued (Eternally)

失業保険を受け取ることのできる期間を延長すると雇用にどのような影響を与えるか、というのは労働経済学において何度も研究され、何度も違う答えが導かれてきた質問である。この歴史に、また新たな1ページが加えられた。

最近発表されたNBER Working Paper No. 20884 ("The Impact of Unemployment Benefit Extensions on Employment: The 2014 Employment Miracle?")で、Hagedorn, Manovskii, and Mitman (HMMと呼ぶ)は、新しい方法を使ってこの質問に答えた。彼らは、失業保険の延長は雇用に強い負の影響を与えると発見した。しかも、彼らの推定した影響の大きさによると、驚くべきことに、2014年以降の雇用の大幅な増加の半分以上が、アメリカの大不況の時期に実施された失業保険の延長が失効したことでもたらされたとのことである。具体的な数字を挙げると、2014年には雇用者数が180万人増えたが、そのうち100万人は、失業保険が失効したことで職探しの本腰を入れた失業者によって生み出されたという解釈ができる。

この結果に対して、CEPR(Center for Economic Policy Research)のエコノミストである Dean Bakerが異議を申し立てている。そもそも、大不況の時期の失業保険の期間延長が雇用に与えた影響はマイルドあるいは弱いとする研究結果が多い中、HMMの結果はセンセーショナルであり、いろいろな方面から批判されている。

まずは、簡潔にHMMがやったことをおさらいしておこう。HMMはアメリカの州ごとに、失業保険期間延長の度合いが異なっていることに注目した。ある州では失業保険の期間が大幅に延長された一方、他の州では失業保険の期間はあまり延長されなかった。これらの州で失業保険の期間延長が失効すると、長く延長していた州の方が、雇用が大幅に増えたということをHMM発見した。また、州による経済状況等の様々な違いをコントロールするために、州境をはさんで存在する2つのカウンティ(この2つのカウンティは基本的に同じ経済状況に面しており、この2つのカウンティを分けるのはそれぞれの州で実施される経済政策、ここでは雇用保険期間延長の度合いだけだという議論である)における雇用の変化度合いの違いに注目した。

Bakerの批判は2点ある。1つ目は、HMMが使っているデータはCPS (Current Population Survey)とLAUS (Local Area Unemployment Statistics)であり、どちらもサンプリングエラーが大きい(ので、HMMの結果はノイズによるものかもしれない)というものである。Bakerによると、LAUSは多くのデータをimpute(直接データを集めるのではなく、他のデータから計量経済学的手法を使って類推している)しているらしい。

2つ目は、失業保険は住んでいる州ではなく、働いている州によって決まるというものである。これは、失業保険の原資は、労働者が会社経由で州に払う税であることから来る。この点のついての裏づけのため、BakerはHMMと同じような分析を、雇用者側のデータ(CES (Current Employment Statistics) )を使って行った。CESは雇用統計で雇用者数を算出するのに使われるデータセットだ。雇用者数については、こちらのほうがデータに信頼性がある。ちなみに、CPSは、雇用統計で失業率や失業期間、労働参加率を計算するのに使われるデータセットだ。Bakerが行ったのは、失業保険期間延長の度合いが異なる州で、失業保険延長の長さと2014年の雇用の変化の関係を計算してみることである。彼の分析の結果は次のグラフにまとめられている。
 失業保険延長期間が長かった州(左側)では、2012-2013年の間に雇用者数は1.31%増加したが、2013-2014年の間には1.41%増加した。一方、失業保険延長期間が短かった州(右側)では、2012-2013年の雇用者数増加率は1.43%、2013-2014年では増加率は1.82%と、大幅に増加した。この結果は、HMMの結果と反対である。

Bakerの分析はあまりちゃんといろいろな要素をコントロールしているようには見えないので、この批判がどこまで有効かわからないけれども、おもしろい。 そのうち、この分析をもっとちゃんとやる人が出てくるだろう。

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