Why Subprime Crisis Happaned?

またもとの路線に戻る。今回は、Christopher Palmerの"Why Did So Many Subprime Borrowers Default During the Crisis: Loose Credit or Plummeting Prices?"を紹介する。

アメリカの最近の大不況(Great Recession)のトリガーの一つは、住宅ローン、特にサブプライムローン(返済能力があまりない借り手向けのローン)の破産の劇的な増加であるという点については、ほぼ皆同意していると思う。では、住宅ローンの破産がなぜいきなり増加したか、というのが次の自然な質問だろう。大まかに言って、二つの説明が考えられる。
  1. 住宅ローンを提供する金融機関が貸し出しを増やしたいために、貸付基準を緩めすぎた。つまり、本来借りられるべきでない人達まで借りてしまったから、ちょっとした不況でも、彼らは破産し、貸し手である金融機関のバランスシートを傷つけることで、不況をさらに深刻化させた。
  2. 住宅価格が予測できないほど大きく下落したからだ。住宅価格が大幅に下落したので、破産が増加し、 金融機関のバランスシートを傷つけたことで、不況はさらに深刻なものになった。
もちろん、この二つは連携しているという面も大きいと思うが、今回紹介するペーパーでは、この2つの説明がそれぞれどの位、サブプライム住宅ローンの破産の増加を説明できるか、をマイクロデータを用いて計算した。著者は、サブプライム住宅ローンをそれが貸し出された年毎に一まとめにし、住宅ローンのうちデフォルトした(借り手が破産した)ものの割合や、住宅ローンの残高と住宅価格の比率(LTV (Loan-to-Value) Ratio)を計算した。このようなマイクロデータを使ったこと自体がこの論文の売りである。

ちなみに、サブプライムローンが住宅ローン全体に占める割合は、大不況が始まったころで13%だけであったが、foreclosure(住宅ローンを貸し出した金融機関による住宅の差し押さえ)のうちサブプライムの占める比率は50%以上あった。

この論文で一番面白いのは、次の2つのグラフである。
 このグラフは、例えば、オレンジの線を例に取ると、2006年に貸し出されたサブプライム住宅ローンのうちどの位の割合が何ヵ月後にデフォルトされたかを示している。2006年に貸し出された住宅ローンは、最初の1年ちょっとで10%くらいがデフォルトされ、5年後(2011年)には約1/3がデフォルトされたことがわかる。2007年の住宅ローンも似たような動きを示している。逆に、2003年のローンは、8年後(2011年)でも約10%しかデフォルトされていない。

但し、このグラフだけを見ても、最初にあげた2つの説明をうまく区別することはできない。2003年に住宅を買った人は、2007年くらいまでは住宅価格が順調に上がり続けたので、2007年以降に住宅価格が下がっても、まだまだ買ったときの価格よりは高い状態が続いたであろうし、2003-2007年の間に元本の返済が進んでいれば、underwater(住宅ローンの残高が住宅の価値より大きくなること。このような状態であれば、デフォルトして家は取られるが債務もなくなる方が得になるかもしれない)になる可能性も低いからだ。逆に、2006年に家を買った人は、2007年以降住宅価格が下がればすぐにunderwaterに陥ってしまう。つまり、上のグラフだけ見ると、2006-2007年の借り手のほうがリスクが高いように見えるが、住宅価格の影響も同じように2006-2007年の借り手がデフォルトする可能性が高いという結果を生み出すのである。

では実際、LTV Ratioはどの位違うのか。それを示しているのが下のグラフである。

このグラフも、住宅ローンが貸し出された年毎に一つの線を描いている。このグラフによると、2003年に貸し出された住宅ローンは貸し出されたときのLTV Ratioの中央値(Median)は88%くらい、つまり、ローンの大きさが購入時の住宅価格の約88%であることがわかる。この比率が高いと感じられるとしたら、その理由は、このペーパーではサブプライムローンだけを見ているからである。普通の(サブプライムでない)住宅ローンであればこの比率は80%程度(つまり頭金が住宅購入価格の20%程度)が普通である。2003年に貸し出された住宅ローンは、2007年までは順調にLTV Ratio(の中央値)が70%程度まで低下していった。それは、住宅価格の上昇と元本の返済の両方による。2007年以降、住宅価格が下落するに応じて、LTV ratioは上昇していったが、その中央値は80%程度を越えることはなかった。つまり、underwaterになったのは多くとも半分以下(LTVの中央値が80%程度なので実際にLTV Ratioが100%を超えるローンは50%よりかなり少なかったであろう)であった。

逆に、2006年に貸し出された住宅ローンをみると、そもそも最初からLTV Ratioの中央値が93%くらいと、とても高い、その上、直後から住宅価格が下落し始めたので、LTV Ratioは115%くらいまで跳ね上がった。中央値が115%ということは、少なくとも半分以上の住宅ローンがunderwater(実際の数は半分よりずっと多いはず)になってしまったのである。

では、借り手のリスクが高まったという仮説と、住宅価格が下がってunderwaterの住宅ローンが増えたという仮設を識別するにはどうしたらよいか?筆者は、マイクロデータ、特に、借り手の特徴が2003年から2007年の間にどのように変わったか、をみることで、借り手のリスクの高まり度合いを計算した。著者が使えるマイクロデータでは、住宅ローンの借り手や住宅ローンの様々な特徴、例えばFICOスコア(借り手の信用能力を示す数字)、債務・所得比率、住宅ローンの利子率、住宅ローンのタイプが含まれている。著者は、これらの特徴が同じであれば、2003年に借りようが2006年に借りようがデフォルトする確率は等しいと仮定した。筆者の計算によると、サブプライムローンの破産の増加分のうち、約30%は貸し手が貸し付け基準を緩めたことで借り手のリスクが高まったことが理由であり、残りの70%は住宅価格が下落したことによる、との結果を得た。

また、筆者は、得られた結果を元に、面白いcounterfactual experiment(仮想実験)を行っている。もし、 2006年に住宅ローンを借りた人たちの住宅価格が2003年に借りた人と同じような動きを示していたら、毎年の破産確率はデータの年率12%ではなく、半分以下の5.6%に留まった。

住宅価格も金融機関の貸し出し基準も内生的に決まると考えると、この結果を元に政策を議論するのは難しい。政策を考えるにはマクロのモデルが必要だろう。しかし、上で見たようなデータを示しただけでも、貢献は大きいペーパーである。

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