AEJ Macro on Financial Crisis and Monetary Policy

最新のAEJ Macroは、「金融危機の金融政策に対する教訓」という2013年10月に開催された学会で発表されたペーパーを元にした特集号であった。自分の専門分野ではないのでぜんぜん詳しくはフォローしていないのだけれども、ここに載っているペーパーのうち半分くらいはいい学会で発表を聞いたことがあるので、すごい力の入った特集号だなぁ、と感心した。今やAEJ MacroはマクロのジャーナルのNo. 1をJMEと争っていると言えるのでは。それぞれをゆっくり読む時間はないので、それぞれのペーパーについて簡単にメモしておく。

Araujo, Schommer, and Woodford, "Conventional and Unconventional Monetary Policy with Endogenous Collateral Constraints"
DSGEモデルに、非伝統的金融政策(様々な資産の買い入れ)と担保制約(Collateral constraint)を導入した。民間主体が担保制約に引っかかっていない状況では、資産の買い入れは実質効果を持たない。民間主体が担保制約に引っかかっている状況では、資産を買い入れることで資産価格が変化すると実質的効果を持ちうるが、総需要に対して正の効果を持つことも負の効果を持つこともありうる。買い入れ額が既に大きいときには、資産の買い入れは総需要に対して負の効果となる。

Gertler and Karadi, "Monetary Policy Surprises, Credit Costs, and Economic Activity"
金融政策が実体経済にどのように影響をあたえるかをVARと日次データを使って推定した。日次データによると、小さな金融政策ショックはGDPとインフレ率に影響を与える。この結果はこれまで存在するVARによる結果と同じである。しかし、小さな政策金利の動きは、タームプレミアやスプレッドに大きな影響を与えることもわかった。さらに、この効果は、Forward Guidanceのスタンスによって大きく変わりうることもわかった。Forward Guidanceが拡張的なときには、金融政策が実体経済に与える効果はより大きくなる。

Gilchrist, Lopez-Salido, and Zakrajsek, "Monetary Policy and Real Borrowing Costs at the Zero Lower Bound"
伝統的な金融政策の効果、つまり政策の金利の引き下げが金利に与える効果と、ZLBの元での非伝統的な金融政策の効果を比較してみた結果、非伝統的金融政策が満期2年あるいは10年の米国債の金利に与える効果は、伝統的金融政策の下での金利に与える効果と同じくらい(comparable)であることがわかった。

Christiano, Eichenbaum, and Trabandt, "Understanding the Great Recession"
NK-DSGEモデルを推定することで、Great Recessionの期間の実体経済の動きの大部分は金融セクターの摩擦、特に借り入れコストへのショック(financial wedge)で説明できることがわかった。2009年の財政支出の拡大の財政乗数は1.6程度と小さく、マクロ経済に大きな影響を与えるには支出拡大の額も乗数の大きさも小さすぎた。

Del Negro, Giannoni, and Schorfheide, "Inflation in the Great Recession and New Keynesian Models"
DSGEは金融危機に始まるGreat Recessionを「説明できない」という批判がよく聞かれるが、このペーパーでは、そのような批判は的外れであることを示すという、力のこもったペーパー。具体的には、NK-DSGEモデルに金融摩擦(借り入れ制約)に対するショックを入れることで、Great Recessionにおけるマクロ変数の動き(GDPの急で大幅な下落、マイルドなインフレ率の下落)もきれいに複製できることを示す。インフレ率の動きはGDPの動きに比べて小さいが、インフレ率は実体経済の動き及び金融政策に大きく影響を受けることも示す。

Coibion and Gorodnichenko, "Is the Phillips Curve Alive and Well after All? Inflation Expectations and the Missing Disinflation"
Great Recessionの際にGDPHa大きく下落し失業率は大幅に上昇したにもかかわらずインフレ率は大きく下がらなかったことから、フィリップス曲線の傾きが小さいことが指摘されているが、各種のサーベイデータを使って、家計のインフレ期待は2009-2011年の間、石油価格が上昇したことで上昇したことを示す。もし、企業のインフレ期待が家計のインフレ期待と連動しているのであれば、このことで、石油価格上昇がフィリップス曲線の傾きを小さく見せたと考えられる。

Gali and Gambetti, "The Effects of Monetary Policy on Stock Market Bubbles: Some Evidence"
VARを使ってアメリカにおいて金融政策ショックが株価(S&P500)に与える影響を推定した結果、金融政策が予想より引き締められた場合、株価は継続的に高まるという、普通の金融政策の効果から期待される効果とは逆の結果が得られた。

Svensson, "The Possible Unemployment Cost of Average Inflation below a Credible Target"
1997年から2011年の間、スウェーデンのインフレ期待はターゲットである2%近辺で安定していたが、実施のインフレ率はターゲットを0.6ppほど下回った。このような状況で推定されたフィリップス曲線の傾きは0.75程度だった。つまり、実際のインフレ率がターゲットの近くにとどまっていれば、失業率は0.8ppほど高くなっていたということである。期待インフレ率が安定しているときには金融政策は失業率をかなり改善しうる。

Brunnermeier and Sannikov, "International Credit Flows and Pecuniary Externalities"
短期資本が行き来する2カ国DSGEモデルを構築。次の2つの外部性が存在するので、均衡は非効率ととなる。よって、このモデルでは、資本の動きを制限したり、マクロプルーデンシャルポリシーを実施することで攻勢を改善することがありうる。2つの外部性とは、(1)生産しすぎることで価格を下げてしまうというチャンネルを認識しない企業が借りすぎてしまうこと、(2)短期資本の動きがファイアセールスを引き起こすことで突然非流動的資本の価格を引き下げてしまうこと。

最近、タイムリーな話題に絞った特集号の話を多く聞く。老舗はJMEのCarnegie-Rochesterシリーズだけど、ほかのジャーナルもこのようなことを以前よりより活発に行っていると思う。日本のジャーナルも、アベノミクスについて、これくらいの分析を 集めた特集号を出して欲しいものだ。

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