今回は、Koijen, Philipson, UhligによるFinancial Health Economicsという論文についてちょっと触れてみる。タイトルを聞いたときには、これは何なんだという疑問を持ったペーパーだ。
このペーパーは次の3つのfactに触発されて書かれた。
- 医療関係のR&Dにかかわる企業の株式のリターンは標準的な資産価格モデルで予測されるリターンより5%程度高い。
- 医療関連支出がGDPに占める割合はOECD諸国の平均で1971年の5.6%から2007年には9.5%まで上昇した。アメリカでは1960年には5%程度だったが2009年には18%まで上昇した。この数字はどこまで伸びるのであろうか?
- 医療関連のR&D支出がGDPに占める割合は1990年代から2000年代はじめごろまでは0.2%程度で安定していたが2006年には0.4%近くに達した。
では、政府がこのようなリスクをなくすことができればどうなるか。著者らはモデルにおいて、政府が生み出すリスクをシャットダウンした際に経済がどのように反応するかを調べた。それによると、アメリカにおいては医療関連支出はGDPの35%程度まで上昇することがわかった。この数字はとても大きいと思うかもしれないが、CBO(Congressional Budget Office, 議会の下にあるシンクタンク)の試算によると、この比率は2082年には49%まで上昇するをされているので、この試算よりは低かった。
また、モデルによると、政府のリスクがなくなれば、医療関係のR&DがGDPに占める割合は0.4%程度から1.5%まで長期的には上昇することがわかった。
大まかに言えば、新たらしい薬の承認プロセスなどにおいて、政府が大きな不確実性を生み出していおり、その不確実性を取り除くことができれば大きなゲインがあることを示した論文である。
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