Financial Health Economics

先進国で高齢化が進展し、医療費がGDPに占めるシェアが上昇していること、そしてアメリカではオバマケア(医療保険制度改革)がホットイシューになっていることから、医療・健康がマクロ経済とどのよう関連しているかという研究がちょっとづつメジャーになっている。医療・保険というと主にmicro、特にempirical microというイメージが強いと思うのだけれども、マクロ系の論文もちょっとづつ増えてきている。多分そのような動きと平行して、マクロと医療・健康に関わる学会もちょっとづつ増えてきている。門外漢ながらそのような学会の一つに顔を出してみた。これから数回にわたってそのうち印象に残ったペーパーについて触れようと思う。

今回は、Koijen, Philipson, UhligによるFinancial Health Economicsという論文についてちょっと触れてみる。タイトルを聞いたときには、これは何なんだという疑問を持ったペーパーだ。

このペーパーは次の3つのfactに触発されて書かれた。
  1. 医療関係のR&Dにかかわる企業の株式のリターンは標準的な資産価格モデルで予測されるリターンより5%程度高い。
  2. 医療関連支出がGDPに占める割合はOECD諸国の平均で1971年の5.6%から2007年には9.5%まで上昇した。アメリカでは1960年には5%程度だったが2009年には18%まで上昇した。この数字はどこまで伸びるのであろうか?
  3. 医療関連のR&D支出がGDPに占める割合は1990年代から2000年代はじめごろまでは0.2%程度で安定していたが2006年には0.4%近くに達した。
細かい点ははしょるが、彼らは、医療関係の株式のリターンが高い理由は、新しい薬の承認等に際して政府の姿勢がランダムに変化することから来るリスクが加味されているからだという。実際、政府が新しいいくするなどを承認するのにかかる時間は大きく変わるし、ある新しい薬が承認されるか否かについては大きな不確実性が存在する。つまり、医療関係のR&Dを行う会社のリターンはこの「政府が生み出すリスク」に対するプレミアムだというわけである。

では、政府がこのようなリスクをなくすことができればどうなるか。著者らはモデルにおいて、政府が生み出すリスクをシャットダウンした際に経済がどのように反応するかを調べた。それによると、アメリカにおいては医療関連支出はGDPの35%程度まで上昇することがわかった。この数字はとても大きいと思うかもしれないが、CBO(Congressional Budget Office, 議会の下にあるシンクタンク)の試算によると、この比率は2082年には49%まで上昇するをされているので、この試算よりは低かった。

 また、モデルによると、政府のリスクがなくなれば、医療関係のR&DがGDPに占める割合は0.4%程度から1.5%まで長期的には上昇することがわかった。

大まかに言えば、新たらしい薬の承認プロセスなどにおいて、政府が大きな不確実性を生み出していおり、その不確実性を取り除くことができれば大きなゲインがあることを示した論文である。

0 comments:

Post a Comment