1.予想通り、日本でのPikettyブームはあっさり終わりそうだ。r>gってものが一人歩きしているが、ちゃんとした経済学者は(少なくとも現時点では)あまり信じていないことを覚えておいたほうが良い。専門家でない訳者とかがちゃんとしてない学者とかがブームを先導していると、アベノミクスといったあまり関係ない話につながってしまったり、批判的な視点が失われがちになるのではないかという気がする。著名な経済学者に対して様々なトピックのアンケートを行っているIGMが、もちろんr>gについても意見を聞いている。それによると、「1970年以降のアメリカで資産分布の不平等が拡大したのはr>gによるものか?」という質問に対して、63%は反対、14%はわからない、2%は同意、5%は意見なしという結果となっている。個人的には、Maskinのコメント(利子率も成長率も均衡によって決まるものなので、それら自体が重要であるにしても、それらよりも深いものが背後にあるはずだ)に共感した。
2.twitterを覗いたら日本の大学の成績にカーブをつける(例えばAは全体の30%以内にするとかいう制約をつける)ことに反対している論調が目に付いた。GPAが低くなると留学しづらくなるということらしい。本当かな。例えば皆が目くじら立てていい成績を狙っているわけではない東大で、コンスタントに上位30%に入れないような人がどこかに行って成功するとは思えない。Aの平均をキープするのはそんなに難しいことではない気がする。それに、成績に現れないすごいところがあるならば、レターで書いてもらえばいい。僕も、カーブのせいでAのちょっと下にいってしまったけど、いいところもある学生にレターを書くときには、そういう事情も書いたことがある。それに、日本の大学は成績評価は厳しいということがちゃんと伝われば、平均が低いことは大きなハンディにならないような気がする。重要なのは、それぞれのクラスがどの程度きちんとしていて、難しくて、どのようなルールのもとで成績評価が行われているかをちゃんと明示化することだろう。採用する側から言うと、カーブをつけないせいでA平均が取れていても、そもそも頭がすごくいい(回転が速いあるいは思考が深い)わけではない人や、マル経とかでいい成績を取っていて、英語とか数学とかプログラミングがぜんぜんできない人にこられても困るのでは。
3.Pikettyブームの陰であまり知られていないのは、所得分布や資産分布に関する研究はずっと行われてきているということだ。Heterogeneous Agentモデルが1990年代以降ちょっとポピュラーになった理由の一つは資産分布や所得分布に関する分析ができるということもある。Representative Agentしかいなかったら不平等に関する分析なんてできない。Pikettyブームを期に、Heterogeneous Agentモデルへの興味が高まってくれるとうれしい。
4.ついでに書いておくと、マクロの変動(景気循環)とミクロの変動(個人の所得の動き・格差)を考えるとき、最も重要だと思うのは、後者のほうがずっと大きいということである。個人のレベルでいえば、マクロのことを勉強あるいは考えすぎて政策に文句つける暇があったら、ミクロのレベルで金になる技術あるいは知識を身につけるほうがよっぽど有効なのだ。政府がちょっと政策(特に景気対策としての財政・金融政策)を変えたくらいで個人の生涯所得に与える影響なんてのは限られている。それに比べて、個人が自分の人的資本に投資したときの生涯所得に与えるリターンはずっと大きい。
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