- デフレーションが起こると名目ベースの債務の実質残高が大きくなり、債務負担が増えた企業の活動が停滞する。
- (継続的な)デフレーションは財やサービスの価格の継続的な下落であり、消費者が将来的な価格の下落を見込んで買い控えをし、需要不足の状況を生み出す。
- デフレーションによって実質賃金が上昇し、名目賃金の下方硬直性の元では、(実質)賃金の 高止まりが失業の問題を悪化させる。
- フリードマンルールの下では、適度で安定したデフレーションは最適な金融政策の結果と捉えることができる。デフレーションの下では貨幣が生み出す非効率は最小化されている。
- デフレーションは過剰生産の結果と考えることもできる。
では、デフレーションは実際に、データをみると、生産の停滞と関連しているのだろうか?最近VOX-EUで紹介されていたClaudio Borio, Magdalena Erdem, Andrew Filardo, Boris Hofmanによるワーキングペーパー"The Costs of Deflations: A Historical Perspective"では、この質問に答えるべく、38カ国の、通算140年間にわたるデータを使って、生産と財・サービスの価格の相関関係を調べたものだ。彼らの結果は以下のように整理できる。
(1) 財・サービスの価格の下落という意味でのデフレーションは頻繁に起こっている。特に第2次世界大戦前までは非常に多かった。
以下のグラフは、赤い点で、デフレーションが起こった年を示している。
デフレーションは意外と頻繁に起こっていることと、戦後、特に1960年以降はとてもまれになったことがわかるであろう。日本人には驚くことではないが、日本で近年継続的にデフレーションが発生しているのは、とても目立つ。
(2) 全部のデータをみると、デフレーションの起こっているときの経済成長率は1.5%に対して、インフレーションが起こっているときの経済成長率は2.7%、つまり、デフレーションは経済成長の停滞と相関している。
下の表の1列目がその結果である。
(3) 但し、この負の相関は、大恐慌が起こった、2つの大戦の間のデータによって生み出されている。上の表の3列目が、1920年から1938年の間に絞った相関を示している。インフレーションの時期は成長率が3.5%である一方、デフレーションの時期の経済成長率は0.5%である。逆に、戦後のデータのみを使うと、デフレーションの時期の方が経済成長率は少しだけ高い。最後の行を見ると、デフレーションが起こっているときの経済成長率は3.2%、インフレーションのときの成長率は2.7%である。戦後に限っていえば、、デフレーションと低成長は一般的に一緒に起こっていないようだ。この関係は1913年以前についても成り立つ。1870年から1913年の間は、デフレーションの時期の経済成長率は1.5%、インフレーションの時期は1.6%で、ほとんど同じである。
下のグラフは、デフレーションの際(x軸が価格の下落率を示す)に、 GDP成長率がどのくらいであったか(Y軸)の相関を示している。
左のグラフが全期間、次は1913年まで、その次は2つの大戦の間の期間、右のグラフは戦後を示している。デフレーションが起こっているときでも経済成長率は高いときもあれば低い時もあること、低い時期の方がちょっと多いのは主に戦間期であることがわかるだろう。
(4) 著者らは1990年以来の日本のデフレーションについて、特別にBoxで論じている。デフレーションが継続的に発生している1990年以降の経済成長率は低いといえるが、大部分は生産人口の減少によって説明できると述べている。いいかえると、日本の労働者一人当たりの経済成長率はそれほど悪くはない、というのが著者らの意見だ。
上のグラフの左の図はインフレ率(赤)と実質経済成長率(青)が示されている。真ん中のグラフは資産価格だ。株価(赤)も住宅価格(青)もバブルの時期の終わり以降低空飛行を続けている。但し、労働者一人当たりのGDPを日本(赤の点線)とアメリカ(青の点線)で比べた場合、2000年以降は日本のほうがパフォーマンスはずっと良い。2000-2013年を比べると、日本の労働者一人当たりのGDPは20%増加したのに比べてアメリカは11%しか増加しなかった。
GDPだけ見ると1990年以降の日本は戦間期に見られたデフレーションと低成長の共存の例として考えたくなるが、ベビーブーマーの引退・高齢化といった要素を加味すると、そのような解釈は必ずしも正しくないともいえる。(ただ、2000年を基準とするのはどうか?1990年以降で計算すると、数字は出ていないが、日本はアメリカと同じくらいか低いように見える。)
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