Raising Consumption Tax in Japan: Analysis with OLG Model, Part-1

ちょっと前に、twitter上で、江口さんという方と荒戸さんという方が、消費税を引き上げたときにマクロ経済にどのような影響を与えるかをRBCモデルで分析していた。これに触発されて、OLG (Overlapping-Generations) Modelで同じような分析を試みようという気になった。半日くらいでできると思ったら週末をつぶしてしまい、いろいろな結果が得られているので、数回に分けて書くことにする。今回は基本的なモデルの仮定とカリブレーション、それに基本的なモデルを走らせた結果だけ書くことにする。

予定としては:
Part-1:基本モデルの セットアップ
Part-2:定常状態で消費税率を変えたとき何が起こるか
Part-3:消費税率が段階的に引き上げられたときのダイナミクス
Part-4:消費税率引き上げがアナウンスされた後で2回目の引き上げが延期されたときのダイナミクス
という順序で書くつもりである。走りながら書いていくので、こうしたほうがよいなどというコメントがもらえればうれしい。

Part-4からわかるように、OLGであるだけではあまり芸がないので、消費税率の2段階の引き上げがアナウンスされた後で、引き上げ時期が後ろ倒しされた場合もモデルの中で分析してみることにした。具体的にはこのようなシナリオを想定する。

2011年まで:消費税率は5%。5%でずっと変わらない(と皆が信じている)定常状態。
2012年:消費税率が2014年に5%から8%に引き上げられ、更に、2015年には10%に引き上げられるとアナウンスされる。
2014年:消費税率は8%に予定通り引き上げられるものの、10%への引き上げは2017年に延期された。
2017年以降:予定通り、消費税率は10%に引き上げられる。経済は消費税率が10%の定常状態へゆっくり収束してゆく。

大体2012年以降の消費税率引き上げの経緯を捉えていると思う。

政策が変更された際のダイナミクスを分析する方法としては、いくつもやり方があると思うが、ここで挙げたやり方は、スタンダードなもののひとつだと思う。簡単なケースの場合、2012年に政策変更がアナウンスされると、政府はその政策を予定通り実施し、経済は消費税率10%の定常状態へゆっくり収束してゆくのだけれども、ここで面白いのは、2014年に、更に政策が変更される点である。このようなシナリオを解くには、まずは2012年に政策がアナウンスされた後、新しい定常状態へ経済が収束して行く均衡をとき、その上で、2014年をスタート地点として、新しいアナウンスメント(消費税率引き上げスケジュールの変更)に基づく新しい均衡を解いている。このような分析はまだあまりなされていないので、新規性という意味でも面白いと思う。

今回は、まずは2011年までの定常状態を解く。厳密にモデルを描写するのはブログではやりすぎなので、モデルの仮定を以下に列挙する。
  • 家計は20歳で生まれて、79歳で死ぬ。つまり60年のライフサイクルモデルである。簡略化のため、家計が79歳より前に死ぬ確率はゼロとする。こうすると定常状態で自然と高齢者が増えてしまうが、高齢化社会を考えるとそんなに悪い仮定ではない気がする。
  • 毎年同じ人数の家計が20歳として生まれる。つまり、簡略化のため人口増加は考えない。経済成長も考えない。トレンドを除去した後の経済を見ていると考えてくれればよい。
  • 高齢化のような、人口構成の変化も考えない。導入は簡単であるが、簡略化のためである。
  • 各世代の中の格差(例えば所得格差)は考えない。これを導入するのは簡単なんだけれども、とりあえず捨象する。
  • 家計は将来の効用を時間選好率(Time discount factor)betaで割引する。各期の効用はCRRA(Constant Relative Risk Aversion)型で、消費と余暇がコブダグラス型で組み合わさる。関数形やカリブレーションは山田さんのJEDC(2012)を参考にした。
  • 家計は20歳から64歳まで働き、65歳以降は退職する。20歳から64歳までの生産性は年齢によってのみ決まる。このスケジュールも山田さんの論文から借りた。但し、山田さんの論文で使われているスケジュールは5年刻みなので、年齢に関する3次の多項式でスムージングした。以下のグラフが、年齢別の生産性を示したものである。時給換算で単位は円である。20歳の時給が1300円くらい、ピークは50歳あたりで約3100円である。
  • 簡単な年金制度を仮定する。労働者(20-64歳の家計)は労働収入が一定の税率Tで課税される。この税によって集められた金額の全てが、年金の支払いに使われる。年金の額は平均労働収入の40%と仮定する。この数字(replacement rate)も山田さんの論文から取った。税率Tは政府の支出収入が毎期毎期バランスするように決定される。つまり、政府は債務を持っていない。2011年以前の定常状態におけるTは13%であった。
  • 消費税率は5%とする。とりあえずは、消費税からの収入は何にも使われない(経済学のジャーゴンで言うと「thrown into the ocean」)と仮定する。定額の補助金として家計に返されるという仮定も考えられるが、このモデルの場合、後で見るように、借り入れ制約に引っかかってる家計が数多く存在しているので、補助金は家計の行動に影響を与えてしまう。それを避け、消費税がどのように使われるかが家計の行動に影響を与えないように、何にも使われないという仮定を置くことにした。
  • 家計は資産0で生まれる。確率的に死んだりすることもなく、遺産動機もないので、79歳が終わるときにはきっかり資産0で死ぬのが最適となる。
  • 家計は借り入れ制約に直面している。具体的には、家計は貯蓄はできるが、借り入れはできないと仮定する。
  • 労働時間は0と1の間で選ぶことができる。余暇の重要性を決定するパラメータは、労働時間が0.33(一日24時間で言えば8時間)になるようにカリブレートした。
  • 時間選好率(Time Discount Factor)betaは、2011年以前の定常状態における資本/GDP比率が2.4となるようにカリブレートした。2.4という数字はHayashi-Prescott (2002)を参考にした。
  • では企業側をみていこう。企業側は簡単で、代表的企業を仮定する。企業は、スタンダードなコブダグラス型の生産関数であらわされる技術を使って生産することができる。資本収入比率は34%に設定した。生産に使われた資本は一定の割合(年率9.5%)で減耗する。
  • 労働者の賃金と資本のレンタルコストは競争的市場で決定される。つまり、均衡では、それぞれ労働と資本の限界生産性から決定される。
  • 簡略化のため、賃金決定における摩擦や名目的な摩擦は考慮しない。つまり、いわゆる総需要は生産に影響を及ぼさない。ここまでやると大変だ。
多分、主要な仮定はこれくらいだろう。ここまで読んでくればわかるとおり、かなりシンプルなセットアップである。今回は、消費税率5%の定常状態の均衡を見る。まずは、資産保有高が年齢によってどのように変わるかを示したのが以下のグラフである。
Y軸の単位は万円である。ちなみに、円の金額で表された数字は2010年の家計の平均収入に合うように調整されている。この均衡では、家計は36歳までは貯蓄をしない。借り入れができれば借り入れがしたいのだが、借り入れ制約に引っかかっている状態である。37歳以降は退職後に備えて急速に資産を蓄積していく。ピークは60歳で約4400万円である。前に述べたように、79歳(最後の年)には資産の額はかなり小さくなり、79歳の終わり(グラフの外である)には資産保有額はきっかりゼロとなっている。4400万円というのは多いと思うかも知れないが、この数字は平均(mean)なので、高めに出るのはしょうがない。世代内の不均衡があるモデルにすると、通常、中央値(median)は平均に比べてかなり低くなる。

では、労働時間は年齢に応じてどのように変わるか?以下のグラフがそれを示している。
20歳から50台半ばまでは30%-40%の時間を労働に使うこととなる。37歳以降、こぶ型(hump-shape)になっているのは、生産性が高いこの時期にたくさん働くのが最適な時間配分だからである。最初のグラフからわかるように、退職時期に向けて生産性はかなり低下すると仮定しているので、労働時間もかなり低下する。再び言っておくと、このグラフは平均的な労働時間を示していると解釈できるので、退職前の急な平均労働時間の低下は早期退職者を捕らえていると解釈できるだろう。

では、収入および消費は、年齢とともにどう変わるだろうか?下のグラフを見てみよう。
 まずは課税前の所得(濃い青の実線)から見ていこう。こぶ型をしているのは、労働所得がこぶ型であるのと、資産所得もこぶ型だからである。前者は、生産性の高い40代、50代に集中的に働くので、これらの時期に多くなる。65歳以降は退職するので労働所得はゼロとなる。後者は、退職後に備えて40台以降資産を蓄積していくと増えてゆき、退職後の消費を支えるために資産を切り崩していくと減ってゆく。課税前の総所得はこの二つのこぶ型プロファイルの合計で決まっているので課税前総所得もこぶ型となる。

では、可処分所得(緑の点線)をみてみよう。働いているときには、一定の税率(均衡では13%)で労働所得が課税されるので、緑の線は濃い青の線とパラレルに近くなる。65歳以降は、年金を受け取るので、可処分所得が課税前所得より年金の分だけ高くなる。退職前は労働所得が急激に減少する一方、65歳以降は年金を受け取るので、可処分所得は65歳でジャンプしている。多分データではこのようにはなっていないだろうが、とりあえずこのままにしておく。ちなみに、モデルの均衡では、年金の支給額は年額245万円となった。

最後に、水色の実線が消費額である。36歳までは、家計は収入の全てを消費に回す(貯蓄をしない)ので、可処分所得と一致している。64歳まで消費額がこぶ型なのは、長く働いているときには、その負の効用を相殺するために消費を多くするからである。たくさん働いている時には飲んだりしてリラックスするお金も多く使うのである。スタンダードなモデルの挙動であるが、リスク回避的な家計は消費の動きを平準化(smoothing)したいので、消費の動きは可処分所得の動きよりずっとスムーズ(平坦に近い)なものとなっている。さらに付け加えると、年金に関する税と年金支給額を考慮した可処分所得は課税前の所得よりスムーズ(消費の動きに近い)なので、年金制度は消費のスムージングを助けているともいえる。まぁ、このようなモデルでは、年金制度がなくても、家計は自分でスムージングできるのだが。

今回は、簡単なOLGモデルがどのような挙動を示すかを解説した。次回以降は、消費税率を変えてゆき、経済がどのように反応するかを見ていく。

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