Raising Consumption Tax in Japan: Analysis with OLG Model, Part-2

前回に引き続き、OLG(Overlapping Generations)モデルを使って、消費税率引き上げが日本経済に与える影響を分析していく。前回も同じことを書いたが、この分析は4回に分けて行う予定であり、各回にカバーする内容は以下のとおりである。今回はPart-2である。

Part-1:基本モデルの セットアップ
Part-2:定常状態で消費税率を変えたとき何が起こるか
Part-3:消費税率が段階的に引き上げられたときのダイナミクス
Part-4:消費税率引き上げがアナウンスされた後で2回目の引き上げが延期されたときのダイナミクス

前回は、消費税率5%等、2010年の日本を再現できるようにカリブレートされたモデルの挙動を見ていった。今回は、まず、消費税率を10%に引き上げた場合、長期的に何が起こるかを見ていこう。 「長期的」と書いたのは、消費税が10%に引き上げられた直後には短期的にいろいろなことが起こりうるが、そのような短期的な効果が全て消えて、経済が新しい定常状態(安定状態と解釈すればよい)に達した後の状態をまずは見ていこうということである。現在はまだ2015年なので、モデルの挙動をデータと比較するためには、短期的に何が起こるかをモデルでシミュレートしなければならないが、それは次回以降に行う。

高齢化が進み(年金に頼る高齢者が増加し)、かつ年金支給額を引き下げないとするなら、労働者に対する課税を大幅に引き上げないと財政が維持できないといわれている。そのような状況では、消費税を5%から10%まで引きあげたところで焼け石に水ということかもしれない。そう考えると、長期的に消費税率が10%にとどまるとは考えづらいが、現在のところ10%以上に引き上げる予定はないので、モデルの中では消費税は永久に10%にとどまると仮定する。

まずは、比較的簡単(で面白い)ケースとして、消費税率を5%から10%に引き上げても、それによって得られる追加的な政府の収入は何にも使われない(throw into the ocean, again)と考えよう。高齢化が進むので多くなった高齢者への年金支払いに当てると考えても良い(もちろん、厳密には、このようなケースを分析するには、高齢化が進む状況をモデルで再現しないといけない)。あるいは、消費税率引き上げによって得られる追加的な政府収入は政府負債の一部返済に使われると考えても良い(もちろん、厳密には、このようなケースは政府の債務があるモデルで分析しなければならない)。

消費税率が5%から10%に引き上げられ、それ以外は前回構築したモデルと何も変わらないと仮定する。もちろん、賃金率と利子率は資本と労働の市場が再びクリアされるように調整されるし、年金の原資を集めるための税金の税率や年金支払額(常に平均労働収入の40%に設定されると仮定する)も新しい均衡では調整される。では、まずは、資本と労働時間を見てみよう。
 紺色の太い線が、前回セットアップした消費税増税前の日本経済における資産(上のグラフ)と労働時間(下のグラフ)を示している。水色の細い線は、消費税率が10%に引き上げたあとの経済を示している。ちょっとわかりにくいかもしれないが、重要なのは、紺色の線と水色の線はまったく同じということである。つまり、消費税率引き上げによって、貯蓄行動や労働時間は長期的にはまったく変化しない。いわゆる、消費税は「ゆがみを引き起こさない」というのがこの結果から見て取れることである。「ゆがみを引き起こさない」というのは、消費税が5%だろうが10%だろうが、消費税がまったくない状態(0%)と同じように資産と労働供給が決められるからである。

これはなぜか?今回は簡略化のため、全ての消費財に一律同じ消費税率がかかる(軽減税率のようなものはない)と仮定されている。この場合、消費税が10%に引き上げられ、消費税率が5%のときと同じように(消費税も含む)支出をするとすると、毎期毎期、5%だけ消費が少なくなる(その5%は政府が徴収する)。家計が最適化の際に気にするのは各年の消費額の「比率」なので、消費税増税によって各年の消費額が5%づつ低くなっても、各年の消費額の比率は変わらず、依然としてその(5%少ない)消費額は最適となるのである。(消費税も含む)支出額が変わらないのであれば、毎年の貯蓄額も変わらず、労働時間も変える必要がないということとなる。下の2つのグラフは、増税前と増税後の可処分所得および消費額を比べたものである。上と同じく、紺色の太い線が消費税増税前、水色の細い線が、消費税率10%の経済を示している。

 貯蓄行動も労働時間も変わらないので、可処分所得についても、紺色の線と水色の線は完全に一致している。消費については、消費税率が5%引き上げられた分、水色の線は、紺色の線に比べてちょうど5%下に位置している。

では、別のケースを考えてみよう。今度は、消費税率を5%から10%に引き上げたとき、追加的に政府が手にする収入は年金をファイナンスするために労働所得にかけられる税を引き下げるのに使われると考えよう。このシナリオでは、新しい均衡では、年金のための税率は13%から8%に下がった。上の4つのグラフで、ピンク色の点線が、そのようなシナリオを表している。まずは、資産と労働時間を見てみよう。よく見る必要があるかもしれないが、このケースでは、資産保有も労働時間も消費税増税前のケースより幾分高くなっている。これはなぜか?消費税率引き上げに伴って年金のための税率が引き下げられると、課税後の時給が上がるので、労働の意欲が高まり、労働時間が増加するのである。労働収入が増えるとその一部は退職後の消費のサポートに使われるため、将来に回すお金も増え、資産は増加する。資産と労働供給という生産に必要な要素が両方とも増加するので、生産(GDP)も増加する。一家計当たりのGDPは初期状態の697万円から707万円に、1.5%増加する。収入が毎年1.5%増加するというのはかなり大きい。3番目のグラフから明らかなとおり、可処分所得も上方にシフトしている。最後のグラフを見るとわかるとおり、消費も(65歳までは)上方にシフトしている。消費税率は10%に引き上げられたが、年金のための税率の引き下げおよび、それに伴う労働時間の増加による所得および消費の押し上げの効果が上回っている。

では、年金のための労働所得税を消費税で置き換えることによる効用(幸福度)への効果はどのくらい大きいのであろうか?このような問いに答える時に、マクロ経済学ではしばしばCEV(Consumption Equivalent Variation)という概念を用いる。消費税が5%の経済に生まれる効用(幸福度)が、消費税は10%だけれども年金のための税率が低い経済に生まれる効用と同じになるためには、最初の経済における毎年の消費額を何%上げなければならないかという指標である。もちろん、2つの経済における効用が同じであればCEVはゼロになる。CEVが正ということは、新しい経済に生まれる効用のほうが高い(ので政策変更が望ましい)ということである。

消費税率5%と年金のための税率13%の経済を、消費税率10%と年金のための税率8%の経済を比較した際のCEVは+1.9%であった。家計あたりのGDPが1.5%増加するので、まぁ大体予測された数字である。では、GDPは1.5%しか増えていないのに、消費換算では1.9%効用が増加するのはなぜか?これは、若い世代が借り入れ制約に直面していることと関係している。借り入れ制約に直面しているということは、消費が増えれば幸福度(効用)がとても高まることを意味している。借り入れ制約が緩和され、若い世代の消費が増えることで、消費の実際の増加分以上に幸福度が増加しているのである。面白いのは、消費におけるピンクの線は退職後は紺色の線の下にあるということである。労働所得への税を消費税で置き換えるということは、労働している家計の税負担を引き下げ、退職した世代の税負担を高めるということである。これによって、借り入れ制約に苦しんでいる若い世代がより多く消費できるようになり、政策変更後の効用をより高めているのである。

ここで得られる一般的なメッセージは、消費税引き上げというのは、ある意味、年金受給額引き下げと同じことだということである。現在の日本においても、受給額を明示的に引き下げるのは政治的に難しいのかもしれないが、消費税を引き上げることで、間接的に、年金受給額を減らしているともいえる。もちろん政府はこのことを公式に認めることはできないが(できるなら最初から年金受給額を引き下げればよい)、消費税増税にはそういった面もあることを今回の実験は示唆しているといえる。

今回の分析では、 世代の中の不平等を考慮していない。そういう意味では、消費税の利点が強調されるぎるきらいがあるかもしれない。この点は、モデルを拡張して世代内の不平等を導入し、累進的な所得税と(累進的でない)消費税を比べることで考慮することができるが、今回はそこまではやってられないので省かせてもらう。

今回の分析でもうひとつ省かれているのは、 総需要がGDPに影響を与えるチャンネルである。NK(New Keynesian)モデルのように名目の摩擦があれば、消費税増税に伴って他の税が引き下げられなくても、消費が減少した際に、総需要が減少し、GDPも減少するかもしれない。そうであれば、消費税増税に伴うGDPへの影響は今回の分析と異なってくるということである。

最後になるが、次回以降の短期のダイナミクスの分析では、 消費税が増税された時に労働収入に対する課税は引き下げられない、つまり、消費税の増税に伴う政府の追加的な収入は何にも使われないという仮定を置く。消費税引き上げに伴って年金のための税率が引き下げられたことはないし、近い将来そのようなことが起こるとは予想されないからだ。それに、データでは消費税増税後にGDPが減少したことを考えると、モデルによるシミュレーションの結果がデータと整合的となるためには、消費税増税にあわせて他の税率が引き下げられるような仮定はデータと合わないと考えられる。

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