今回簡単に触れるのは、Andrew Roseによる、最新のNBER Working Paper "Currency Wars? Unconventional Monetary Policy Does Not Stimulate Exports"である。少なくとも日本では、どのようなチャンネルを期待して非伝統的金融政策を行うのか、そのチャンネルが働いていることはどうやって確かめられるのか、実際のそのチャンネルが働いている証拠はあったのか、といった議論が全然見られないような気がしている(まぁ、そんなものを期待してもしょうがないと皆思っているんだろうが)。個人的には、口には出せなくても、為替レートが減価することによって、輸出が増えて、輸入が減るというような効果をひそかに期待しているのではないか、と考えていたのだが、このペーパーでは、非伝統的金融政策を実施した国で輸出が増えた証拠はないということを示している。
著者も認める通り、行われたのは簡単な回帰分析である。簡単に書くと各国の輸出と輸入を「説明する」回帰式に、「非伝統的金融政策ダミー」(非伝統的金融政策を実施している時には1、実施していないときには0)を入れただけである。データはIMFの、国別の輸出入データを使っている。「非伝統的金融政策」には量的緩和(QE)と負の政策金利が含まれており、当然日本の場合長期にわたってダミー変数は1になっている。下の表が、今回の回帰分析に含まれる「非伝統的金融政策」の一覧である。
タイトルからもわかるとおり、著者の回帰分析によると、非伝統的金融政策を実施した国は輸出が10%減少し、輸入は7%減少し、為替レートは0.6%減価した、というのが主要な結論である。つまり、為替レートは為替レートチャンネルが想定するように減価しているが、輸出が増えるという効果は全く見られなかった。もしかしたら、現代の輸出入の多くは企業が中間財をある場所から別の場所に移すという形式で行われているので、為替レートが与える影響は小さい、という話なのかもしれない。但し、輸入は7%減少している。もしかしたら、為替レートチャンネルは輸入に効くといういう理論があるのかもしれない。
基本的には回帰分析なので、著者もかなり控えめにインプリケーションを導き出している。著者の一つの解釈は、非伝統的金融政策を行っているのは、にっちもさっちもいかない国だから、経済状況の悪化が輸出入を減少させ、為替を減価させているだけではないかというものである。まぁもっともらしい。このような解釈の妥当性を評価するためにも、今後は内生性をもっときちんとコントロールする試みが必要だろうが、とりあえずのとっかかりの分析としては面白い。
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