NBER Summer Institute: EFG Meeting

今回は、NBER Summer Instituteのマクロの目玉であるEFG (Economic Fluctuations and Growth)グループで発表された6つのペーパーについて簡単にメモしておく。

Fogli and Guerrieri, "The End of the American Dream? Inequality and Segregation in U.S. Cities"
アメリカでは、過去40年間、所得の不平等の度合いが高まるとともに、所得による隔離(segregation, 所得の高い人・あるいは低い人が同じところに住む)の度合いが高まっていることを示した後、この両方の現象を、ピア効果(能力の高い子供がまわりにいると自分の能力も高くなる)でどの位説明できるかを調べた。大卒による所得のプレミアムが何らかの理由で高まると、それで所得の増えた親が他の能力の高い子供が住むエリアに引っ越してピア効果で自分の子供の能力も高めようとする。そのような親が集まるエリアは地価が高騰し、所得の比較的低い親は締め出されることとなる。その子供たちが親になると、その効果は雪だるま式に強まっていく。

Gopinath and Stein, "Banking, Trade, and the Making of a Dominant Currency"
米ドルは、国際貿易の決済において最も使われる貨幣であり、金融機関も大量のドルを保有している。例えば、輸出国も輸入国もドルを使っているわけでもない(からドルを保有すると為替リスクを負う)のに決済通貨としてドルが使われているケースは多く存在する。これはなぜかを説明しようとするペーパー。筆者らが提案するチャンネルは次のようなものである。ドル資産の金利が下がったとすると、借り入れを行って生産を行い、輸出している企業は、ドル建てで輸出を行うことで代金を受け取るまでの金利コストを抑えることができる。輸出企業がドルでの決済を好む状況になると、輸出企業に貸し出しする銀行も(負債と資産の貨幣をマッチさせるべく)ドルの安全資産を持つインセンティブが高まる。そのような銀行の行動がドル資産の金利を引き下げ、ループが完結することになる。

Perriが討論者だったのだけれども、本当に重要な要素だけを残した彼らのモデルのシンプルなバージョンを作り、彼らの結果がどのように生じているのかをきれいに示していた。清滝さんもこういう討論をするのを何度か見たことがあるけど、こういう、頭のよさそうな討論をしたいものだ。

Deboutoli and Gali, "Monetary Policy with Heterogeneous Agents: Insights from TANK Models"
最近、たくさんの異質な家計(HA = Heterogeneous Agent)をニューケインジアン(NK)マクロモデルに導入して、代表的個人(RA = Representative Agent)のNKモデル(RANKモデルと最近呼ばれる)では説明できない現象を説明しようとするHANKモデルが開発されてきているが、2タイプの家計(TA = Two Agent)だけが存在するNKモデル(TANKモデル)でも、HANKモデルの挙動がうまく近似できると主張。但し、討論者のViolanteが、彼らのHANKモデルと、それを近似しようとするTANKモデルを比べたら、挙動が違っていると主張していたので、シンプルなモデルでしか当てはまらないことなのかもしれない。

Bhandari and McGrattan, "Sweat Equity in U.S. Private Business"
1986年のレーガン税制改革以来、非公開企業(private business)の比重が高まっている。著者らによると、歳入庁(IRS)に報告される企業所得の半分は非公開企業となっている。しかし、著者らによると、非公開企業の資産の大きな部分は、いわゆるスウェットエクイティ(Sweat Equity)と呼ばれる、企業家が労働によって獲得する、顧客リストや評判のような、直接的に計量するのが難しい資産である。筆者らは、モデルを使ってこのSweat Equityを計測する方法を提案する。彼らによると、Sweat EquityはGDPの約2/3で、機械などの目に見える資産の価値と同じくらいである。最に、著者らは、彼らのモデルを使って、非公開企業の行動に影響を与える税制改革の効果をモデルを使って分析する。

Karahan, Pugsley, and Sahin, "Demographic Origins of the Startup Deficit"
アメリカでは、1980年以来、新しい企業が創出・参入されるスピード・および企業が退出するスピードが低下しているといわれている。その他にも、一般的に経済のダイナミズムが失われつつあるということを示唆するデータはあるが、このペーパーでは新しい企業が創出されるスピードに焦点が当てられる。著者らは、まず、1980年以来新規企業の創出ペースが低下したのは、労働力人口の成長率が低下し始めたタイミングと一致していると主張する。その上で、彼らは、労働力人口の成長率が低下し始めると、賃金が将来的に上昇することが期待され、新規に企業を創出するコストが上昇(もちろん、既存企業の生産コストも上昇するので、どちらの効果が強いかというのが問題になる)し、かつ、企業家になるより賃金労働者になって上昇する賃金を享受するインセンティブも強まる。

Eggertsson, Robbins, and Wold, "Kaldor and Piketty's Facts: The Rise of Monopoly Power in the United States"
以前のポストで書いたがいわゆる「カルドア事実(Kaldor Facts)」というのは、新古典派成長モデル及びそのモデルにショックを加えたものであるRBCモデルがスタンダードモデルとなるのに大きな影響を与えた。新古典派成長モデル・RBCモデルはカルドア事実と整合的だったからだ。このペーパーは、ピケティ事実なるものを提案して、同じようなことを実現しようという、野心的なものである。彼らがピケティ事実と呼ぶのは次の5つである。
(1) 資本/GDP比率は歴史的に2.5程度で安定している(これはカルドア事実)が、資産価値/GDP比率は1970年以来大幅(2.5から4.0まで)に上昇した。
(2) 同様に、トービンのQ(企業の市場価値を企業がもつ資本のコストで割ったもの)も1から2に倍増した。
(3) 資本のリターンは安定的な一方、実質利子率は5%から0%まで低下した。
(4) GDPにおける労働収入の割合は65%から57%に低下した一方、資本の比率も20%から15%に低下した。つまり、GDPに占める企業の利潤の割合が上昇した。
(5) 投資/GDP比率も低下した。
著者らは、この「ピケティ事実」の全てが企業のど独占力が高まったことと整合的であることを、シンプルなモデルで示した。具体的には、何らかの理由で、企業は生産コストに
マークアップを上乗せして生産できるとする。このマークアップが0%から20%に上昇すると、「ピケティ事実」の全てを生み出せる。討論者はLoukas Karabarbounisだったが、(企業の独占力が高まり)企業の利益・マークアップが上昇したという「事実」は、データの選択・解釈によっており、著者らが言うほどロバストではないということを示していた。

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