Are Fiscal Multipliers Really Larger in Recessions?

また久しぶりになってしまった。夏の学会シーズンも終わりつつあるので、この夏の学会シーズン中にみたペーパーで印象に残ったものについて軽く触れていくことにする。

このエントリで触れたけれども、Auerbach and Gorodnichenkoは一連の研究において、好況期と不況期では財政乗数が異なる、特に不況期(1.5)の乗数は好況期(0)のそれよりかなり大きいことを、アメリカおよび数多くの国のデータにおいて示した。これは、財政支出積極派にはとても好ましいニュースである。財政乗数はいつも変わらないという仮定のもとに財政乗数を推定すると、財政乗数はあまり大きくない(つまり財政支出がGDPに与える効果は小さい)ということになるのだが、財政支出が効果的であってほしい不況期には実は財政政策は効果的なのだ、といっているからである。

但し、この研究が注目を浴びて以来、逆の結果もいくつか提示されてきた。Owyang, Ramey, and Zubair (AER(最近注目のPPである) 2013、"Are Government Spending Multipliers Greater During Periods of Slack? Evidence from 20th Century Historical Data")はそのような研究のひとつである。彼らは、アメリカの四半期のデータ(1890Q1-2010Q4)を使い、財政乗数が失業率が高い(>6.5%)時期と低い時期で異なりうる形式のVARを推定し、財政乗数(1年後の乗数を示す)は好況期も(0.88)不況期(0.78)もほとんど変わらないことを示した。逆に不況期の方が乗数は低い(!)くらいである。彼らの推定した乗数は好況期も不況期も乗数はかわらないと仮定して推定された乗数(0.81)とあまり変わらなかった。

なぜAuerbach and Gorodnichenkoと違う結果になったのか?彼らの推定方法はAuerbach and Gorodnichenkoと異なる点がいくつかあり、それぞれがどれくらい影響を与えているかはこのペーパーでは分析されていないものの(多分NBER WPとかでは分析されていると思う)、大きな違いは彼らは(戦争に関する)ニュースをショックとして使っている点にあるようだ。Auerbach and Gorodnichenkoが使った、財政乗数を推定するスタンダードな方法は、単純に言えば財政支出とGDPを含むVARを推定するものであるが、これだと、財政支出に関するニュースを皆が事前に知っていて、労働供給を増やした場合(将来の増税に対するwealth effect)、その分が財政乗数としてカウントされてしまう(ので財政上数が大きくなりやすい)が、ニュース自体をショックとして扱えばそのような問題を回避することができるのだ。その一方、ニュースはきちんと計測されているかとか、戦争に関する支出の財政乗数しか測れないという問題があることは前にも書いたと思う。

 面白いことに、著者らはカナダについても同じ分析を行った結果、カナダの場合、不況期の財政乗数(1.16)は好況期のもの(0.46)よりかなり高い(乗数が一定のモデルの乗数は0.79)ことがわかった。なぜこのような結果になったかについての分析はなされていないが、カナダの場合、第2次世界大戦の周辺でしかニュースショックがないので、この時期の特殊要因だけによって推定値が決まってしまうという問題かもしれない。他の国についても同じような分析がなされれば面白い。

財政乗数をめぐる議論はまだまだ終わりそうにない。

0 comments:

Post a Comment