Output gap? We talking about output gap?

2月もなかなかいい頻度で更新できていない。後半にかけてペースをあげていかないと。とはいえ、比較的長いエントリをあまり考えずに書くので、あとで大幅に修正することになると思う。

今回はGDPギャップ(あるいはoutput gapとも呼ぶ)について書く。論文としてはJustiniano and Primiceri (WP2008)に触れながら話をする。このペーパーはまだワーキングペーパーで、かつ、先行する他のペーパーに比べて多大な貢献をしたとは考えにくいのだけれども、さまざまな主要な学会で発表する機会を得ているので、もしかしたらトップジャーナルに行くのかもしれない。

「GDPギャップ」とは何か。簡単に言うと「実際のGDP(actual GDP)」ー「潜在的GDP(potential GDP)」として計算できる。実際のGDPはデータとしてあるけれども、「潜在的GDP」というのはよくわからない概念である。一つの定義の仕方としては、経済が完全雇用を維持しているときに達成されるGDPといえる。完全雇用というのもあいまいな概念なのであいまいな概念を他のあいまいな概念で置き換えただけともいえる。他の定義の仕方としては、インフレ率を上げずに達成できる最大限のGDPともいえる。

どのように定義したところで、「潜在的GDP」なるものを、どのように定義、計測するかしだいでGDPギャップというものも決まってくることが容易にわかるだろう。いっておきたいのは、GDPギャップというものは非常にあいまいな概念だということである。

では、なぜこのようなものが重要なのか。古いケインジアンの議論によると、GDPギャップが正(つまり、実際のGDPが潜在的GDPを上回る)時には、経済が過熱気味なので、緊縮的な財政政策(増税、政府支出削減)あるいは金融政策(政策金利引き上げ)によって経済の熱を冷まし、GDPギャップが負のときは逆に拡張的な財政政策(減税、政府支出増加)あるいは金融政策(政策金利の引き下げ)によってGDPを潜在的レベルの近くに引き上げるべし、とされている。よって、GDPギャップがどの程度かというのは採用すべき財政政策、金融政策に大きな影響を与えるのである。

では、どうやって潜在的GDP(GDPギャップ)を測るか。以下の3つの方法がある。以下はMishkinによる2007年の学会におけるオープニングスピーチ(Estimating potential output)から借用している。

(1)実際のGDPを「スムーズ」にして、それを「潜在的GDP」と呼ぶアプローチ。簡単に言うと、実際のGDPのグラフで「平均的な線」を真ん中にひいてみればよい。もう少しsophisticatedなやり方をするなら、実際のGDPをHPフィルターなどのフィルターにかけ、トレンド部分だけ残すか、GDP成長率を前後10年のmoving averageとしてGDPを計算するなどすればよい。

(2)生産関数を使うアプローチ。例えば、1セクターモデルで、Cobb-Douglas生産関数を仮定して、平均的なTFPのトレンド、完全雇用レベルの推定値、平均的な総資本のトレンドを放り込むことで「潜在的GDP」を作り出す。アメリカでGDPギャップの話をする際には主にCBOが計算したGDPギャップが使われるが、CBOのアプローチは基本的にこれである。以下にCBOが計算した潜在的GDPとGDPギャップ(IMF等が計算したGDPギャップと比較されている)のグラフを転載する。




(3)DSGEモデルを使うアプローチ。

Justiniano and PrimiceriはスタンダードなDSGEモデルからGDPギャップを計算して、伝統的な(背後にモデルのない)GDPギャップと比較した論文である。なぜこの比較が重要か?DSGEモデルから導き出されたギャップと伝統的なギャップが大きく異なっているならば、例えば、伝統的な金融政策は間違っていたことになる。逆に、DSGEから導き出されたギャップが伝統的なギャップに近いのであれば、伝統的な金融政策はおおむね正しいといえる。しかも、モデルを使うことで、伝統的な金融政策はどのくらい「最適な」金融政策と異なっているか、どのように改善できるかなどを学ぶことができる。

Justiniano and Primiceriは実際何をやったか?まずは、標準的なDSGEモデルをアメリカのデータを使って推定し、モデルから導き出される(1)潜在的GDPと(2)自然GDPを計算し、これらを伝統的な手法で計算された潜在的GDP(例えばCBOの潜在的GDP)と比較した。主要な結論は以下の2つである。
1.モデルから導き出された潜在的GDPは非常にスムーズで、伝統的な手法で計算された潜在的GDPと非常に近い。
2.モデルから導き出された自然GDPは伝統的な手法で計算された潜在的GDPとぜんぜん違う。特に、自然GDPは実際のGDPより激しく振幅する。

まず説明しなければならないのは、「潜在的GDP」と「自然GDP」である。彼らの定義は以下の通りである。
1.潜在的GDPは、価格が伸縮的で、すべての市場が競争的な場合のGDP
2.自然GDPは、価格が伸縮的だけれども、市場は競争的でない場合のGDP
である。潜在的GDPというのは、効率的GDPと言い換えてもよい。Welfare Theoremが成り立つ状態のGDPである。それに対して、自然GDPは、価格の硬直性だけが改善された場合のGDPである。

なぜ、潜在的GDPはスムーズになるのか?簡単に言うと、潜在的GDPというのは、効率的なショックのみが働いている状態である。単純に言えば、TFPショックのみが働いているRBCモデルにおけるGDPを考えればよい。彼らは4種類のショックを入れており(TFP、価格マークアップ、賃金マークアップ、割引率)、彼らの推定によると、実際のGDPの変動のうちTFPショックによって生み出されている部分は大きくない。このような状況で、TFPショック以外のショックを取り除いてしまえば、GDPの変動は大きくないのは当たり前である。

では、なぜ、自然GDPの方は変動が大きいのか?ショックがすべて働いているけれども、価格と賃金が伸縮的な場合、何が起こるか?TFPショック以外で大きな効果を持っているのは賃金マークアップショックなので、これに注目してみよう。賃金が伸縮的な場合は労働時間の反応が大きくなる。賃金の硬直性がCalvo型で入っているので、それを取り除けば、すべての労働者が一斉にショックの影響を受けるので労働時間の賃金マークアップショックへの反応は大きくなる。加えて、推定された賃金マークアップショックの変動幅がとても大きいことが挙げられているが、僕には直感としてよくわからない。

彼らの主要なセールスポイントは、1、つまり、モデルから導き出された潜在的GDPが伝統的な方法で計算された潜在的GDPと近いことである。伝統的なギャップが好きな人に受けるという意味で売り込みやすい結果であるが、この結論には大きな問題点がある。DSGEモデルを使って潜在的GDPを計算することでより「客観的」な潜在的GDPが計算できることが期待されていたのだけれども、結局は、モデルの仮定に大きく依存してしまうことが明らかになったからである。まずは極端な例を考えてみよう。同じexerciseをスタンダードなRBCモデルを使って行うとどうなるか。スタンダードなRBCモデルでは潜在的GDPは実際のGDPに常に等しいので、GDPギャップは常にゼロとなる。ここまで極端な例を挙げなくても、他のペーパー(例えばLevin et al (NBER MA 2005))では、潜在的GDPは実際のGDPにとても近い、つまりギャップは非常に小さいという結果が出ている。Justiniano and Primiceriのモデルでは、efficient shockは基本的にはTFPショックしかないので、それ以外のショックを取り除いて潜在的GDPを計算するととてもスムーズなものができるが、もしTFPショック以外にefficient shock、つまり、潜在的GDPに影響を与えるショックがいろいろあるとすると、潜在的GDPがどのようなものになるかは、実際のGDPの変動のうちどの部分がeffieicnt shockによって生み出されているかに依存することになる。伝統的なGDPギャップ計算方法に内在する「主観性」を取り除くことが期待されたDSGEモデルベースのGDPギャップも結局主観性を取り除くことが難しいことがわかってきたというのが現在の状況だと思う。

最後に、最近の日本の状況についてだけれども、しばしば負のGDPギャップが大きいことが暗黙に仮定されているように見受けられる。適当に「平均的な」線を引いて潜在的GDPを導出すれば(あるいは、伝統的な方法でGDPギャップを計算すれば)もちろん負のGDPギャップはとても大きいのであるが、長期にわたって大きな負のGDPギャップを維持できるのか、よくわからない。モデルベースのGDPギャップを計算したら小さい値が出たとしても僕は驚かない。

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