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SED 2019: Day-Ahead Conference

(特にミネソタ系)マクロで最もレベルの高い学会の一つである、SED (Society of Economic Dynamics)の年次総会が、今年はセントルイスのワシントン大学のキャンパスで行われた。最近は、大きな学会があると、その前日にその町にあるFRBなどがDay-Aheadカンファレンスという学会を開催するのが流行りになっている。今回もやはり、SEDの年次総会の共同スポンサーでもあるセントルイス連銀が、SED開催の前日にDay-Ahead カンファレンスを実施したので、そこで発表されたペーパーについて簡単にメモしておく。

Michele Tertiltの"Regulation of Consumer Credit with Over-Optimistic Borrowers"(Florian Exler, Igor Livshits, James MacGeeとの共著)は、「行動経済学的な」仮定を入れた、ヘテロマクロモデルを使った分析である。消費者には所得が高い確率が高いタイプ(良いタイプ)と低いタイプ(悪いタイプ)の2つのタイプがいるが、どちらのタイプも自分が所得が高いタイプだと思って行動する。もちろん、長期間にわたって所得が低ければ、自分は所得が高い確率の低い(悪い)タイプだと学ぶのが普通であるが、消費者は皆「楽観的」(自分は「良いタイプ」だと考えて行動する)だというのがこのモデルの肝である。この仮定により、悪いタイプが、よいタイプに成りすますことのコストを考えて行動したり、これらの消費者にお金を貸す貸し手がどうやったら良いタイプにだけお金を貸すことができるかと考えるような、難しい問題を解く必要がなくなるからだ。これらの消費者は消費をスムーズにするためにクレジットカード会社からお金を借り、時によっては破産を選択する。クレジットカード会社の方は、お金を貸したときに、どの割合が良いタイプかを知っているが、良いタイプと悪いタイプは全く同じ行動パターンをとるので、2タイプを見分けることはできない。つまり、均衡では両タイプが同じ金利で借りることになる。このようなモデルの均衡では、自分の所得能力について楽観的な(悪い)タイプは、(自分のリスクにも相当した高い金利より)低い金利(低いリスクプレミアム)で借りることができる一方、良いタイプは悪いタイプと混ざっているので、高めの金利でしかお金を借りることができない。このような均衡では、政府が政策によって破産のコストを低くすることができると、実際に破産しがちな悪いタイプは得をするのだけれども、破産をあまりしない良いタイプは、破産が増えることによるリスクプレミアムの上昇で、損をしてしまう。

Maaten Meeuwisが発表した"Belief Disagreement and Portfolio Choice"(Jonathan Parker, Antoinette Schoar, Duncan Simesterとの共著)は、今流行りの、普通には手に入らないデータセットを使った分析である。詳細には立ち入ら(れ)ないが、彼らは、アメリカの数百万人がどのようにポートフォリオを組んでいるかというデータを入手し、彼らのポートフォリオが、2016年11月の大統領選(トランプが僅差でクリントンに勝った)の結果によってどのように変化したかを分析した。彼らのデータではそれぞれの投資家がどちらの政党を支持しているかはわからないが、どこに住んでいるかはわかるので、共和党支持者の多いエリアに住む人と、民主党支持者が多く住んでいるエリアに住んでいる人で、2016年11月の選挙の結果を受けたポートフォリオ組み替え方がどのように違っていたかを見ることができる。彼らのメインの結果は、大統領選での共和党の勝利の後で、共和党支持者の多いエリアに住む人は、民主党支持者が多いエリアに住む人に比べて、より株式への投資割合を増やしたというものである。著者らの解釈は、よく仮定される、全投資家が同じ(合理的)期待を持つという仮定よりも、皆が異なるモデル(に基づいて将来の資産のリターンを計算している)を持つという仮定が支持された、というものである。

S. Boragan Aruobaの"Pure Wealth Effect or Credit Constraints? Decomposing the Response of Consumption to House Prices"(Ronel Elul, Sebnem Kalemil-Ozcanとの共著)は、アメリカでGreat Recessionの時に住宅価格が下がったことで、消費が落ち込んだというMian-Sufiの有名な結果を、さらにいいデータを使ってより詳細に見てみたペーパーである。住宅価格が下がると消費が落ち込むというのは、理論的には十分あり得ることだが、その主なチャンネルは2つある。1つは「資産効果チャンネル」である。自分がもっている資産の価値が下がったことで、将来それを取り崩して実行できる消費額が下がるので、それに合わせて現在の消費を減らすというものである。もう1つは、「借入制約チャンネル」である。住宅価格が下がるとその価値を担保に借りれる金額が低くなるので、お金を借りて消費に回していた家計は消費を切り詰めざるを得なくなる。このペーパーでは、Great Recessionにおいてこの2つのチャンネルがそれぞれどのくらい強かったかを調べてみた。基本的なアイデアは、クレジットスコアの低い(高い)家計の住宅価格の下落に対する消費の反応は、借入制約チャンネル(資産効果チャンネル)によるものだろうと仮定することである。彼らの分析の結果は、Great Recession時における消費の下落のうち、資産効果によるものはほぼゼロ、借入制約チャンネルによるものが70%ほど、金融機関のバランスシートが痛んだことで貸し出しが制限された効果は20%ほど、残りの10%程度は一般均衡効果(消費の低迷に合わせて雇用が減少して所得がさらに減少することによる消費の減少)というもの。

Tim Landvoigtの"Financial Fragility with SAM?"(Daniel Greenwald, Stjin Van Nieuwerburghとの共著)では、SAM(Shared Application Mortgage)という新しいタイプのモーゲージ(住宅ローン)をマクロモデルの中で分析している。SAMというのは、住宅価格が下がった(上がった)ときには、モーゲージの支払額も下げる(上げる)という形態のモーゲージで、住宅価格が下落したときには自動的に支払額を引き下げることによって、(不況で失業するなどして所得が下がってモーゲージの支払いが困難になって)デフォルトに陥る人の数を減らそうというアイデアである。僕は全然知らなかったが、こういうモーゲージを提供しているフィンテック会社がすでにあるらしい。彼らのモデルはとても複雑なので、詳細には全然立ち入ら(れ)ないが、彼らは、モーゲージの支払額を国全体の住宅価格の動きに合わせて調整するSAMと、モーゲージを借りている人が住む地域の住宅価格に合わせてモーゲージの支払額を調整するタイプのSAMの効果を分析した。彼らのシミュレーションによると、経済全体に前者が導入された場合、基本的には景気変動のリスクをより金融機関に負担させることになるので、金融機関のバランスシートが景気の動きに対して敏感になりすぎてしまい、金融セクターの危機の頻度が増えてしまう。その一方、後者の場合、金融機関が各地域の住宅価格変動のリスクをシェアすることができていれば、住宅価格変動のリスクを別の地域に住んでモーゲージを持っている人々の間でシェアすることになるので、好ましいという結果になった。

Fabrizio Perriの"Unequal Growth"(Francesco Lippiとの共著)は、アメリカでは過去40年程度の間に、個々人の所得の不平等度が上昇し、同時に、経済全体の成長率が低下してきたが、これらの間の関係を、PSID(1967年から個々の家計の所得が見られるデータ)を使ってちょっと深く見てみたという論文。具体的には、次の関係に注目した:

  • ⓪経済全体の成長率=①個々の家計の所得の成長率の平均(個々の家計の所得のレベルでウェイト付けされていないもの)+②個々の家計の所得のレベルと所得の成長率の相関(×それぞれのばらつき具合)。

直感的に説明すると、個々の家計の所得の増加率が同じであれば、経済全体の成長率は①と等しくなる(②はゼロになる)。個々の家計の所得の成長率が異なる場合、もし、所得が高い家計の方が所得の伸びば大きければ、経済全体の成長率は①より大きくなる。経済全体の成長率を計算するにあたっては所得のレベルでウェイト付けするので、所得が高い家計の所得成長率が高ければ、経済全体の成長率は高くなるからだ。このような分解の方法はOI(Olley and Pakesなど)で頻繁に使われているらしい。彼らの分析によると、過去40年で、①は特に1990年以降上昇傾向にある。しかし、②は常にマイナス(所得のレベルが高い人の所得成長率は比較的低い)だが、そのマイナス度合いが特に1990年以降高まった。1990年以降②の低下のスピードが①の上昇のスピードを上回っていたことで、経済全体の成長率が低下したというのが彼らの発見である。②のマイナス具合がさらに低下したというのは、所得が高い人の所得成長率がさらに低下したことと、所得が低い人の所得成長率がさらに高まった、ことの両方によるもののようだ。彼らのペーパーでは、この後、モデルを使った分析もなされているが、メカニカルな分析で、では、なぜこのような変化が起きているのかはわからない。とはいえ、こういう分解による分析もできるんだなぁという感じ。

最後に、Mariacristina De Nardiの"The Lost Ones: The Opportunities and Outcomes of Non-College Educated Americans Born in the 1960s"(Margherita BorellaとFang Yangとの共著)では1960年代に生まれた、大学に行っていない白人のアメリカ人は、1940年代に生まれた人たちに比べて、①平均寿命が短く、②医療費が高く、③(教育の度合いをコントロールした後の)平均的に賃金が低い(特に男性)。これらの要因によって、1960年代に生まれた白人アメリカ人は、1940年代に生まれた人たちに比べて、どのくらい「幸福度」が下がっているかを、上の①~③を外生的な変化とするライフサイクルモデルを用いて計算した。彼らのモデルによると、1960年代生まれで、大学に行っていない、白人のシングルの男性は1940年代に生まれた場合に比べて、生涯賃金の12.5%損をしていることがわかった。1960年代生まれのシングルの女性の場合はこの割合は7.2%、カップルの場合は8%だった。

Alan Krueger at Jackson Hole

毎年8月の最終週に、FRBの幹部連中(および世界中の中銀のトップ)がジャクソンホールという、ワイオミングの小さな町に集まる。ここは、普通は、登山・ハイキングや(西部スタイルの)乗馬やスキーが楽しいところで、交通の便もとても悪い(多くの都市から直行便がない)ところなんだけれども、夏の終わりにFRBのトップがジャクソンホールに集まって金融政策について、いろいろなスピーカーを呼んで、オープンに議論をするというのが習慣となっている。主催するのはカンサスシティ連銀で、カンサスシティ連銀は毎年ジャクソンホールの前は準備で大変みたいだ。

今年のテーマは、企業の独占の度合いが高まっていることが最近話題になっているが、そのようにマーケットストラクチャーが変化している中で、金融政策はどのように適応していくべきかというものだった。今年の全体のアジェンダはここにある。この中で、アラン・クルーガーのスピーチが良くまとまっていたので簡単に紹介しておきたい。日本も同じ問題に直面しているが、日本の状況について考える際にもとても参考になると思う。

クルーガーは、まず、経済学者はマーケットが競争的である(賃金は生産性と一致するところで決まる)と考えがちだけど、多くのマーケットは実際には競争的ではないと議論する。面白い例として、彼が財務省で働いていたときに、世界のトップのファイナンスの学者達が、LIBORや為替市場に対して誰かが大きな影響力を持ちうることについて懐疑的だったという話を挙げている。その一方、アダム・スミスは国富論において、雇用者は常に賃金を生産性を下回る水準に引きとめようとするものであり、そのことを否定する人は世の中について全然わかっていないと書いていたことを引用している。

経済学において、賃金が競争的に決まらない代表的なフレームワークとしては、(1) ジョーン・ロビンソンに始まる、需要独占(あるいは寡占)のフレームワークと、(2) バーデット・モーテンセン・ピサリデス・ダイアモンドが発展させたサーチモデルのフレームワークがあり、彼のスピーチの背景にあるのはこのようなフレームワークであると述べた上で、近年、失業率はとても低い水準にあるのに、賃金上昇率(インフレ率)は加速しない理由として、以下の6つをあげている。

1.労働市場がタイトになってきた場合、賃金が低いレベルにある労働者の賃金から上がり始めるが普通であるが、同時に、賃金の不平等が拡大しつつあり、低賃金労働者の労働市場が悪化しつつ(後で述べる)ある中では、賃金の上昇プレッシャーが打ち消されている。Katz-Kruegerの研究によると、これらのを考慮に入れた自然失業率は1970年の6.8%から1990年代には5.4%に低下し、2000年代には更に低下したという研究もある。

2.現在の賃金上昇率は賃金フィリップスカーブから得られる賃金上昇率よりも1-1.5pp(パーセンテージポイント)低い。高齢化の進展が0.2-0.3pp引き下げているであろう。生産性の停滞が1pp程度説明できる可能性はあるが、昨年は生産性は回復していた。データではうまく計測されていない労働市場のスラック(緩み)もそのギャップの一部を説明できるかもしれないが、労働者の退職率は不況前の水準まで回復しており、スラックがうまく計測されていないとは考えにくい。

3.各セクターにおいて主要な企業の市場占有率が高まって、それらのトップ企業の重要独占の度合いが高まっているというエビデンスが蓄積されてきている。更に、市場の独占が進んでいるセクターでは賃金上昇率も低めであるり、その相関関係は高まりつつあるというという結果もある。有名なのは各地域の看護師の賃金上昇率と病院の市場独占度合いの相関についての研究である。また、労働強供給の弾力性と賃金の上昇率の相関も発見されている。

4.大きな企業による労働市場の需要独占というのは常に存在していたと思われるが、それに対抗する制度が最近弱まってきている。2つ例を挙げると、(1) 労働組合の組織率・交渉力の低下、(2) 最低賃金の(実質)レベルの低下があげられる。

5.近年アメリカにおいては、企業の需要独占力を高める制度が広まっている。その例を5つ挙げると:(1) 短期(非正規)雇用制度の充実で労働者の交渉力が弱まっている、(2) non-compete制約(競合する企業に移れない契約)の広まり(サンドウィッチ屋の従業員にもnon-compete制約は存在する)、(3) 多くの職種で政府によるライセンスが必要になってきていること、(4) Ashenfelter-Kruegerの研究によると、58%のフランチャイズ制の企業において、他のフランチャイズからの従業員の引き抜きの禁止(no-poaching)規定がある。この数字は1996年には36%だったが上昇しつつある。この問題は特にファーストフードで多い。(5) フランチャイズでなくても、競合企業が談合して、お互いに従業員の引き抜きを避けるような慣習がある。最近までは、毎年、AEAにおいて、トップの大学は新任の助教授の給料やコースロード(何コマ教えるか)について合意をしていた!

これらの制度は、企業の独占力が高まっていると実施しやすいこと、明示的でなくても実施することができること、大不況時に失業を経験して従業員が失業を恐れている時には、労働組合も強気の交渉がしづらいこと、を指摘しておく。その一方、このような制度は、労働市場がタイトになると、維持しづらくなってくる。最近このような制度が問題になってきているのは、労働市場がタイトになってきていることと無関係ではないかもしれない。

6.企業の需要独占力が高まって、賃金の上昇率が抑えられても、雇用者数に大きな影響を与えるとは限らない。つまり、労働供給の弾力性は低く見えるかもしれない

では、労働市場におけるこのような展開に対して、金融政策はどのように対応すればよいだろうか?企業の需要独占力の行使に対する有効な政策は、反トラスト法の行使であり、政府の仕事である。金融政策当局にできることとしては次のことを考慮に入れることかもしれない:(1) このような需要独占力の行使を外生的なショックととらえられる(具体的には自然失業率の低下のショック)、(2) 労働供給の弾力性は低いかもしれない、(3) 労働市場がタイトになることによって、ここで挙げたような需要独占力の行使が有効でなくなってくるかもしれない。

NBER Summer Institute: Micro Data and Macro Models (4)

引き続き、NBER Summer InstituteのMicro Data and Macro Modelsで発表されたペーパーのメモ。最後は最終日のペーパー。ほかのセッションも出たが、今回で、NBER Summer Instituteのペーパーについて書くのは終わりになるような気がする。そして余力があれば通常営業に戻る予定である。

Corbae and Glover, "Employer Credit Checks: Poverty Traps versus Matching Efficiency"
アメリカでは、雇用しようか考えている人のクレジットヒストリー(破産したかとか、債務をきちんと返済しているかとかがわかる)をチェックすることが普通に行われている。彼らのペーパーによると、ある人事部の人へのインタビューによると60%の会社でクレジットヒストリーをチェックして採用するか否かを決める材料に使っていた。もし、patientな(将来のことを重視する)労働者とpatientでない労働者がいるとすると、前者の方がクレジットヒストリーはよく、彼らの方が長い目で自分への投資などを行うので、好ましい人材となりうる。ただ、この場合、patientでない労働者は職が見つかりづらくなり、その結果、借金の返済に困ったりして、クレジットヒストリーが下がって、さらに職が見つかりにくくなるという負のスパイラルに陥る状況を生み出してしまう。このような状況を避けるには雇用の決定をする際にクレジットヒストリーを参照するのを禁止すればよいということもできるが、この場合、企業は欲しい人材が採用できなくなるし、クレジットヒストリーが悪くても雇用に影響がないということで期限通りに借金の返済などをするインセンティブが損なわれてしまう。このような複雑な状況を一般均衡モデルで分析した論文である。

Braxton, Herkenhoff, and Phillips, "Can the Unemployed Borrow? Implications for Public Insurance"
行政データ(administrative data)から得られる所得のデータとクレジット関連のデータを組み合わせることで、職を失った人がどのようにクレジットカードなどのクレジットを使っているかをみてみた。すると、職を失った人はクレジットカードでお金を借りることができるし、実際借りていること、および、借り入れしすぎている人は破産することで借金の返済に苦しまずに済んでいることが分かった。(注:理論的には、失業したら破産の可能性が高まるので、クレジットカード会社は借入をできないようにしたくなるはずだけれども、アメリカの場合、クレジットカード保有者の所得のデータは頻繁には得られない(特に失業した人が自発的に所得を報告したりはしない)ので、失業した人もそれ以前に取得したクレジットカードを使い続けることができるということだろう)つまり、クレジットカードは、失業保険のように使えるということである。このことは、クレジットカードが盛んに使われている状況では、最適な失業保険のレベルは低い(クレジットカードが代替してくれるから)ことを示唆している。著者らは、クレジットカードと失業のリスクのあるモデルを構築して、最適な失業保険の金額を計算し、現在のアメリカの水準(彼らによると45%)より低い35%であることがわかった。

どちらのペーパーも個人の異質性のあるマクロモデルの最先端のモデルである。

Argente, Lee, and Moreira, "How Do Firms Grow? The Life-Cycle of Products Matters"
最初に書いておくと、このペーパー、無茶苦茶面白かった。全然知らない分野なんだけど、聞いているだけでわくわくした。ペーパーにはモデルもあった気がするが、モデルはどうでもよくて、データが面白かったので、いくつかデータについて書いておく。

彼らのデータは、2006-2015年の間、全米40,000の小売店で、それぞれの商品のバーコードを使って、何がいくつ売れたかを詳細に記録したものである。さらに、それぞれの商品がどの企業に属しているかもわかる(商品と企業をマッチしている)ので、それぞれの企業がどのような商品に頼っているか、商品の売れ行きは時間とともにどのように変わっていくか、企業は商品をどのように入れ替えていくか、などがわかるというものである。

彼らによると、彼らのサンプルに含まれる企業の売り上げは毎年6%づつ伸びているが、売り上げの増加は新製品によるもの(毎年11%の伸び)である。新製品は、導入された年に売り上げを伸ばすが、その後は、売り上げは普通はコンスタントに落ちていく(既存の製品の売り上げの年平均下落率は6%)からである。

彼らの推定によると、製品の平均的なライフサイクルは以下のようなものである。
売り上げは最初の4年間くらいは増加し、そのあとでは落ちてゆく。但し、このグラフは、売り上げが小さかった商品は早く消えてゆくので、その分ライフサイクルが押し上げられるという影響(composition bias)が入っている。それをコントロールするために、何年売られていたかわかっている商品だけ見て、それぞれの商品を別々に見てみたのが以下のグラフである。
それぞれの線は、その製品が何年売られてたかを示している。どの製品も新製品として導入された後は、売り上げは落ちてゆく。もちろん、息が長かった製品(彼らのデータでは最長は16年)は当初から売り上げが大きい。最初のグラフの当初4年間の上昇は数年しか売られなかった商品がなくなって売り上げの平均が押し上げられたからだとわかる。

では、売り上げを、価格と数量に分解してみると、以下のようになる。
製品のライフサイクルとしては、価格はあまり動かない一方、数量が大きく変わっていく。もちろん、上で上げたようなバイアスが含まれていることは注意してほしい。

次のグラフは、企業が売る商品の数が、企業の年齢とともにどのように変化してゆくかを示している。
予想通り、新しい企業は売っている商品の数も少ないが、企業が年を取るにつれて、打つ商品の数は増えていく。

とりあえずこれくらいにしておくが、とにかく色々なグラフを見ているだけで色々なことを自然と考えてしまう楽しいプレゼンだった。

Krueger and Uhlig, "Neoclassical Growth with Long-Term One-Sided Commitment Contracts"
最後は打って変わって理論系の論文である。いわゆるAiyagariモデルなどは、消費者が締結できる契約を(著しく)制限しているというのが、昔は大きく問題にされてきた。モデルの中の消費者は、所得が高い人が低い人に所得を移転する保険契約(アロー証券でもいい)を取引したいはずなのに、Aiyagariモデルの中では、個々人の直面するショックの結果に依存しない、一定の利子率の債券しか取引できないからである。1990年代には、このようなAiyagariモデルの仮定にミクロ的基礎(micro foundation)を与える研究が流行していたが、最近は、あまり見られなくなった。このペーパーは、最近見られなくなった、そのような流れの論文である。彼らのモデルでは、保険会社が個々の消費者の所得のショックに応じて支払い額が変わる(所得が低かった消費者は高い金額を受け取って所得が高かった消費者は低い金額を受け取る)保険契約を売るんだけれども、消費者の方は後で保険契約から抜けることができる(つまり保険会社の側しか契約にコミットできない)モデルを構築した。この状況では、保険会社も、所得が高かった消費者が保険から抜けてしまうことも考慮して、完全に所得の変動を抑える(保険金支払額の変化で相殺する)契約を売ることができないので、完備契約とはならない(消費は個人のショックに応じて変動する)。つまり、Aiyagariモデルと同じような特徴が導き出せる。このようなモデルは大体複雑になって、いろいろな要素を加えることができないんだけれども、ある仮定の下では、モデルの解が解析的に得られるのが売りである。ただ、このような不完全な保険契約なんて実際に売ってないじゃないか、という質問が出て、皆同意しているように見えたのは感慨深かった。1990年代だったら、逆に、Aiyagariモデルを使うと、外生的にどのような資産が取引されるか仮定してよいのか、という質問がしょっちゅう出たからである。時代の変化を感じさせた。

NBER Summer Institute: Micro Data and Macro Models (3)

引き続き、NBER Summer InstituteのMicro Data and Macro Modelsで発表されたペーパーのメモ。今回は3日目。

Boerma and Karabarbounis, "Inferring Inequality with Home Production"
所得の不平等が注目を集めているが、不平等を考えるに当たっては所得だけ見ればいいというものではない。(著者らの例ではないが)、2人いる経済で、1人は会社で働いて給料をもらって、もう1人は農業を営んで自給自足の生活をしているとすると、(データで把握される)「所得」だけ考えると後者は所得ゼロなので、不平等が大きい用に見えるが、消費(あるいは幸福度)は前者も後者も同じかもしれない。著者らは、所得で把握されない、家計内生産(home production)も考慮すると不平等の度合いどのように異なってくるかを計算した。使ったデータは、CEX(家計レベルの消費を細かく記録したマイクロデータセット)とATUS(American Time Use Survey、家計レベルでどのように時間を使っているかを詳細に追ったマイクロデータセット)の組み合わせ。著者らの分析によると、所得の高い家計のほうがより多くの時間を家計内生産に費やして消費しているので、不平等の度合いは更に大きくなるとのこと。予想される結果は、所得が低ければその分家計内生産生産でカバーしてるように考えるのが自然なので、家計内生産も含むと不平等の度合いは小さくなるのではと考えられるがその逆の結果となっている。但し、細かくは見ていないけれども、何を家計内生産に含めるかに大きく寄るようだ、というのが議論を聞いたうえでの印象。所得が高くて、より多くの時間を子供に割くことができれば、子供との時間は家計内生産に含まれるので、家計内生産の不平等は大きく出るというのが強く出ているようだ。

Eisfeldt, Falato, and Zhang, "The Rise of Human Capitalists"
著者らは労働の対価として賃金ではなくて、会社の株やストックオプションを受け取る労働者を「人的資本家」と定義して、人的資本家がアメリカの経済に占める割合が近年高まってきていることを指摘。所得面のGDPの内訳を見たときに、労働者が受け取る賃金のシェア、および、資本が受け取るレンタル料のシェアが低下してきていることは最近注目を浴びている(例えば最近このポストこのポストでも触れた)が、その少なくとも一部は、(主にスキルの高い)労働者が賃金という形ではなくて会社の株やストックオプションという形で報酬を受け取る傾向が高まっているからだと主張している。

Caucutt, Gunner, and Rauh, "Is Marriage for White People? Incarceration, Unemployment, and the Racial Marriage Divide"
25-54歳の白人女性で結婚したことのある(あるいは同棲している)人の割合は1970年には94%であったのが2013年には79%まで低下した一方、黒人女性で結婚した異なるひとの割合は89%から51%まで大幅に下落した。この違いは(何らかの理由で、黒人女性は黒人男性を好み、白人女性は白人男性を好むという仮定が重要だが)、黒人男性で刑務所に入っている人の割合が高まったこと、および職がない人の割合が高いことで説明できることを示した。

Bloom, Guvenen, Pistaferri, Salgado,-Ibanez, Sabelhaus, Song, "The Great Micro Moderation"
マクロ経済学の最近のビッグデータの流行を牽引するオールスターによる論文。アメリカ(及び他の国)における過去数十年の労働者間の賃金の不平等の拡大が、例えば院卒・大卒の平均給料の伸び率が高卒(あるいは高卒以下)の平均給料の伸び率を大幅に上回っていたことによる(あるいは他の、労働者間の目に見える違いで説明できる)ものなのか、あるいはここの労働者が直面するリスク(所得の不安定性)が拡大したからなのかについては、おそらくは両方とも拡大したというのが一般的に受け止められている結論だと思う。但し、これまでの分析は、誰でも利用できるが、把握されている労働者の数は比較的小さいデータセットを用いてなされてきた。この論文では、社会保障局(Social Security Administration)が持っている詳細な所得データを用いて、同じ分析を行ってみた。主要な発見は以下の4つである。(1) 性別・生まれ年・年齢が同じ労働者の間の賃金の成長率の分散(賃金の不安定性と解釈できる)は1980年から2013年の間、大きく低下した。(2) この低下は、企業間の、雇用変化率及び平均賃金上昇率の分散の低下と同時に起きている。(3) 労働者の賃金の成長率の分散の低下は、転職する労働者の割合の低下で説明できる(彼らのデータセットは個々の労働者が毎年どこで働いていたかを追うことができるすごいものなのだ)。その一方、転職した労働者、あるいは、転職しなかった労働者の賃金上昇率の分散はあまり変化していない。(4) 労働者の賃金の上昇率の分散の低下は、企業の雇用変化率の分散の低下で「説明」できる。またしても、既存の結果に対して、違うように見える結果を突きつけた論文である。

NBER Summer Institute: Micro Data and Macro Models (2)

前回に引き続いて、NBER Summer InstituteのMicro Data and Macro Modelsで発表されたペーパーのついてのメモ。今回は2日目。

Fagereng, Holm, Moll, and Natvik, "Saving Behavior across the Wealth Distribution: Evidence from Norway"
ペーパーやスライドが公開されていないので詳細は覚えていないのだけれども、ノルウェーの1993-2015年の個人の資産と所得のパネルデータを使って、資産の異なる人の貯蓄パターンがどのように異なるかを見てみた論文。横軸に総資産、縦軸に貯蓄率をとると、スゥッシュ型(ナイキのロゴの形)をしているらしい。つまり、資産が最低レベルから増えていくと、貯蓄率は少し低下するが、資産がプラスになるあたりからは貯蓄率は増えている。でも、これは、資産(主に住宅)の価値が上がっているからそう見えるだけであって、資産価格をコントロールすると、資産がゼロより上の人の貯蓄率はフラットで、シンプルなモデルと整合的。多分、ノルウェーのデータの価値で押しまくるペーパーなのだろう。

Bach, Calvet, and Sodini, "From Saving Comes Having? Disentangling the Impact of Saving on Wealth Inequality"
こちらは、スウェーデンの個人の所得と資産のパネルデータのお披露目のような論文だった。同じように、貯蓄率が資産に応じてどのように異なっているかを見ており、確か、上のペーパーと同じように、ある資産レベルを超えるとフラットな貯蓄率(なので理論と整合的)だという結果だったと思う。

上の2つのペーパーで印象的なのは、良質なマイクロデータを提供できる国であれば、その国のデータを使った研究がさかんになるということである。北欧諸国の消費や資産(個人・家計レベルの詳細なパネルデータがある)あるいは労働市場(企業と労働者がマッチされたデータがある)に関する研究が盛り上がっているように見えるのはこのおかげだろう。日本も良質のデータを提供できればよかったのに。良質のマイクロデータがあることで研究が進むという流れからは出遅れた感がある。

Guren, McKay, Nakamura, and Steinsson, "Housing Wealth Effects: The Long View"
アメリカの1975-2017年の都市レベル(380の都市)の住宅価格およびリテール産業の雇用者数のデータを使って、住宅価格の資産効果が最近と過去で異なっていたか、そして、資産効果は住宅価格が上がったときと下がったときで異なっているか(非対称性)を検証した論文。背景としては、アメリカの大不況期において、消費が大きく停滞したのは、住宅価格の下落による負の資産効果が大きかったからだといわれていること、および、住宅を担保にした借り入れが2000年以降特に増加したから大不況期における負の資産効果が大きかったのではないかといわれていることが挙げられる。この大きな負の資産効果は大不況期の住宅価格の大きな下落だけに当てはまるものか、それとももっと一般的なものかを調べてみたといえる。結果としては、資産効果の度合いは2000年より前と後で特に異なってはいない、それに、資産効果の非対称性はみられない、というものであった。彼らによると、住宅価格が1ドル上がったときに消費の増加は3.3セント。

Fuster, Kaplan, and Zafar, "What Would You Do with $500? Spending Responses to Gains, Losses, News, and Loans"
NY連銀は、2013年以降、消費者期待調査(Survey of Consumer Expectations)という調査を実施している。全米を代表する1300の家計に、毎月、今後1年のインフレ率、賃金上昇率、所得上昇率を質問している。このペーパーでは、この調査に特別な質問を加えてもらい、架空のシナリオで500ドル(500ドルがベンチマークだけどあるいはそれより大きな金額についても聞いている)を急に得たり失ったりしたときに、消費者がどのように消費・貯蓄パターンを変えるかを調べた。結果は以下の通り。(1) 500ドルを急に得たときの消費の反応は人によって大きく異なる、(2) 500ドルを急に失ったときの反応も人によって大きく異なるが、500ドルを得たときの反応より大きい。(3) 将来500ドルをもらえると聞いたときの反応は小さい。(4) 1年間無利子のローンを与えられても反応は小さい。(5) その一方、将来500ドルを失うと聞いたときは消費を切り下げる(つまり、将来のことを何も考えていない=myopiaわけではない)。

最後のペーパーが象徴的なんだけれども、良質のマイクロデータにアクセスできる人、データを作れるコネやリソースのある人に大きなアドバンテージがあるのだなぁという感じである。

NBER Summer Institute: Micro Data and Macro Models (1)

前回に引き続いて、NBER Summer Instituteで見たペーパーのメモ。今回は、Hurst, Kaplan, Violanteによる新しいグループ"Micro Data and Macro Models"の初日のペーパーについてのメモ。

Ottonello and Winberry, "Financial Heterogeneity and the Investment Channel of Monetary Policy"
最近は、金融政策の効果を、どのような家計にどのような影響があるかをデータで見て、それをもとに異質性の入ったモデルをつくることが行われてきているが、その企業バージョン。自然に思いつく次のステップといえる。アメリカの公開企業のデータ(Compustat)を使って、どのような企業が金融政策に反応して投資を増やしたり減らしたりするかを見てみたところ、借り入れ額が小さくて(レベレッジが効いていなくて)、格付けが高い企業の投資の反応の方が大きかった。借り入れが大きくて格付けが低い企業の方が、金融政策の効果で借り入れ制約が引き締まったりゆるんだりして投資額を大きく変化させると考えることもできるので、ある意味驚くべき結果といえる。この結果をもとに、企業の異質性のあるNK-DSGEモデルを作って、彼らのデータと整合的になる(カリブレーションの仕方によるのかな)ことを示した。金融政策の効果は、企業の格付けや借入度合いの分布によって異なってくるというインプリケーションは面白い。

Bahaj, Foulis, Pinter, and Surico, "The Employment Effects of Monetary Policy: Macro-Evidence from Firm-Level Data"
発表は見逃してしまったので、1月のAEAのスライドを見てみた。上のペーパーと同じように、金融政策の影響が異なる企業に対してどのように異なっているかを、イギリスのデータを見て分析している。また、投資ではなく、それぞれの企業の雇用がどのように金融政策によって影響を受けるかを見ている。金利の引き上げに対して、総雇用者数は当然マイナスに反応するが、若い企業(設立から10年以内)、小さい企業(雇用者数1000人未満)、格付けの低い企業の方がマイナスの影響は大きく、そういう企業の方が金利引き上げで借入制約がよりタイトになって舞いますの影響が大きくなるというチャンネルと整合的上のペーパーと反対に見える結論なので面白かったと皆が言っていた。アメリカとイギリスの違い、Compustatのカバレッジの狭さ、投資と雇用の違い、分析手法の違い、など、いろいろ結果が異なる理由となりうるものはあるが、今後の展開に期待である。

Dupor, Karabarbounis, Kudlyak, and Mehkari, "Regional Consumption Responses and the Aggregate Fiscal Multiplier"
アメリカの大不況の時に実施された大規模な財政拡張政策であるアメリカ復興・再投資法(American Recovery and Reinvestment Act)のもとで配分された金額が各州で異なることを利用して、州レベルで財政支出を1ドル増やしたときに民間支出がどの程度増えるか(財政乗数の消費バージョンである)を計算したところ$0.18であった。この結果を国全体の乗数に変換するため、州の違いを取り入れたDSGEモデルを作って国レベルの財政消費乗数を計算したところ$0.4であった。つまり、州レベルの(消費)乗数よりも国レベルの乗数は大きかった。これは、州の間の貿易が活発化するからである。

Auclert, Rognile, and Straub, "The Intertemporal Keynesian Cross"
ケインジアンモデルの乗数効果のようなものを、一般的なDSGEモデルの中で再解釈しているといえばいいのかな。よくわからなかった。誰か教えてほしい。例えば金融政策の効果は、静学的なモデルで考えれば、MPC(限界消費性向)が高ければ高いほど大きいと考えられるが、動学的なモデルを考えると、金融政策の「総」効果は、毎期毎期の消費の反応の合計(intertemporal MPC)で測ることができる。これが大きければ大きいほど、昔のケインズ経済学の乗数効果のように、静学的なMPCは一定でも、金融政策の効果は大きくなると言える。

NBER Summer Institute: EFG Meeting

今回は、NBER Summer Instituteのマクロの目玉であるEFG (Economic Fluctuations and Growth)グループで発表された6つのペーパーについて簡単にメモしておく。

Fogli and Guerrieri, "The End of the American Dream? Inequality and Segregation in U.S. Cities"
アメリカでは、過去40年間、所得の不平等の度合いが高まるとともに、所得による隔離(segregation, 所得の高い人・あるいは低い人が同じところに住む)の度合いが高まっていることを示した後、この両方の現象を、ピア効果(能力の高い子供がまわりにいると自分の能力も高くなる)でどの位説明できるかを調べた。大卒による所得のプレミアムが何らかの理由で高まると、それで所得の増えた親が他の能力の高い子供が住むエリアに引っ越してピア効果で自分の子供の能力も高めようとする。そのような親が集まるエリアは地価が高騰し、所得の比較的低い親は締め出されることとなる。その子供たちが親になると、その効果は雪だるま式に強まっていく。

Gopinath and Stein, "Banking, Trade, and the Making of a Dominant Currency"
米ドルは、国際貿易の決済において最も使われる貨幣であり、金融機関も大量のドルを保有している。例えば、輸出国も輸入国もドルを使っているわけでもない(からドルを保有すると為替リスクを負う)のに決済通貨としてドルが使われているケースは多く存在する。これはなぜかを説明しようとするペーパー。筆者らが提案するチャンネルは次のようなものである。ドル資産の金利が下がったとすると、借り入れを行って生産を行い、輸出している企業は、ドル建てで輸出を行うことで代金を受け取るまでの金利コストを抑えることができる。輸出企業がドルでの決済を好む状況になると、輸出企業に貸し出しする銀行も(負債と資産の貨幣をマッチさせるべく)ドルの安全資産を持つインセンティブが高まる。そのような銀行の行動がドル資産の金利を引き下げ、ループが完結することになる。

Perriが討論者だったのだけれども、本当に重要な要素だけを残した彼らのモデルのシンプルなバージョンを作り、彼らの結果がどのように生じているのかをきれいに示していた。清滝さんもこういう討論をするのを何度か見たことがあるけど、こういう、頭のよさそうな討論をしたいものだ。

Deboutoli and Gali, "Monetary Policy with Heterogeneous Agents: Insights from TANK Models"
最近、たくさんの異質な家計(HA = Heterogeneous Agent)をニューケインジアン(NK)マクロモデルに導入して、代表的個人(RA = Representative Agent)のNKモデル(RANKモデルと最近呼ばれる)では説明できない現象を説明しようとするHANKモデルが開発されてきているが、2タイプの家計(TA = Two Agent)だけが存在するNKモデル(TANKモデル)でも、HANKモデルの挙動がうまく近似できると主張。但し、討論者のViolanteが、彼らのHANKモデルと、それを近似しようとするTANKモデルを比べたら、挙動が違っていると主張していたので、シンプルなモデルでしか当てはまらないことなのかもしれない。

Bhandari and McGrattan, "Sweat Equity in U.S. Private Business"
1986年のレーガン税制改革以来、非公開企業(private business)の比重が高まっている。著者らによると、歳入庁(IRS)に報告される企業所得の半分は非公開企業となっている。しかし、著者らによると、非公開企業の資産の大きな部分は、いわゆるスウェットエクイティ(Sweat Equity)と呼ばれる、企業家が労働によって獲得する、顧客リストや評判のような、直接的に計量するのが難しい資産である。筆者らは、モデルを使ってこのSweat Equityを計測する方法を提案する。彼らによると、Sweat EquityはGDPの約2/3で、機械などの目に見える資産の価値と同じくらいである。最に、著者らは、彼らのモデルを使って、非公開企業の行動に影響を与える税制改革の効果をモデルを使って分析する。

Karahan, Pugsley, and Sahin, "Demographic Origins of the Startup Deficit"
アメリカでは、1980年以来、新しい企業が創出・参入されるスピード・および企業が退出するスピードが低下しているといわれている。その他にも、一般的に経済のダイナミズムが失われつつあるということを示唆するデータはあるが、このペーパーでは新しい企業が創出されるスピードに焦点が当てられる。著者らは、まず、1980年以来新規企業の創出ペースが低下したのは、労働力人口の成長率が低下し始めたタイミングと一致していると主張する。その上で、彼らは、労働力人口の成長率が低下し始めると、賃金が将来的に上昇することが期待され、新規に企業を創出するコストが上昇(もちろん、既存企業の生産コストも上昇するので、どちらの効果が強いかというのが問題になる)し、かつ、企業家になるより賃金労働者になって上昇する賃金を享受するインセンティブも強まる。

Eggertsson, Robbins, and Wold, "Kaldor and Piketty's Facts: The Rise of Monopoly Power in the United States"
以前のポストで書いたがいわゆる「カルドア事実(Kaldor Facts)」というのは、新古典派成長モデル及びそのモデルにショックを加えたものであるRBCモデルがスタンダードモデルとなるのに大きな影響を与えた。新古典派成長モデル・RBCモデルはカルドア事実と整合的だったからだ。このペーパーは、ピケティ事実なるものを提案して、同じようなことを実現しようという、野心的なものである。彼らがピケティ事実と呼ぶのは次の5つである。
(1) 資本/GDP比率は歴史的に2.5程度で安定している(これはカルドア事実)が、資産価値/GDP比率は1970年以来大幅(2.5から4.0まで)に上昇した。
(2) 同様に、トービンのQ(企業の市場価値を企業がもつ資本のコストで割ったもの)も1から2に倍増した。
(3) 資本のリターンは安定的な一方、実質利子率は5%から0%まで低下した。
(4) GDPにおける労働収入の割合は65%から57%に低下した一方、資本の比率も20%から15%に低下した。つまり、GDPに占める企業の利潤の割合が上昇した。
(5) 投資/GDP比率も低下した。
著者らは、この「ピケティ事実」の全てが企業のど独占力が高まったことと整合的であることを、シンプルなモデルで示した。具体的には、何らかの理由で、企業は生産コストに
マークアップを上乗せして生産できるとする。このマークアップが0%から20%に上昇すると、「ピケティ事実」の全てを生み出せる。討論者はLoukas Karabarbounisだったが、(企業の独占力が高まり)企業の利益・マークアップが上昇したという「事実」は、データの選択・解釈によっており、著者らが言うほどロバストではないということを示していた。

On NBER Summer Institute

今年もNBER Summer Instituteに行ってきた。NBER(全米経済研究所)がだいたい7月いっぱいボストン(というかケンブリッジのRoyal Sonesta Hotel)で開催する学会で、個人的には少なくともマクロでは世界最高の学会だと思っている。発表されるペーパーの数は例えばSEDやCEFやAEAなどに比べて全然少ないが、ペーパーが厳選されており(発表するのもとっても難しい。そのうち発表したいものだ)、それぞれのペーパーに45分から1時間かけるので、その年の重要なペーパーについてじっくり学ぶことができる。また、参加者もおそらくはトップジャーナルに送ればエディターやレフェリーになりうる人がそろっているので、発表者のプレッシャーも大きく、もちろんそうした人たちのコメントもとても勉強になる。

ペーパーについては、印象に残ったものについておいおい書きたいと思う。日本語でもう一度メモを書くと覚える助けになると思うから。でもまずその前に、ペーパーというより、セッションの環境について書いておく。

今回、初めて、EFG(Economic Fluctuations and Growth)グループを見てきた(発表なんてとてもできない)。例年に比べてミネソタの人が多くかかわっており、知り合いが結構多いので楽しいかなと思ったからだ。EFGというのは、マクロのグループの最高峰で、7月第2週の土曜日に毎年開催される。マクロの別のグループはこのEFGの分科会的な位置づけとなっており、それぞれのグループの最高のペーパーがここに選ばれるような感じだと思う。EFGで面白いのは、それぞれのペーパーに1時間割り振られているものの、発表者は15分しか時間がなく、その後討論者が20分使って議論し、後の25分はフロアの誰でもコメントできるという構成である。それに、大体、討論者は、その分野のシニアでトップジャーナルに送るとエディターあるいはレフェリーに絶対なりそうな人が担当する。発表する人は、15分しかないので、細かいところには立ち入れないが、イントロだけしか話せないというのは避けたいので、EFG用の練習をみんなしているといっていた。今年でいえば、討論者は、Rogerson, Perri, Violante, Hall, Haltiwanger, Loukas Karabarbounisだった。例年に比べてバトルが少なかったといっている人はいたが、かなり激しく叩かれたペーパーもあって、見物人としては楽しかった。例えば、日本のマクロの学会とか作れるんだったら、こういうフォーマット面白いかななどと思っていた。

あと、面白かったのは、今年から始まったMicro Data and Macro Modelsグループ(EFGの分科会である)のセットアップである。Micro Data and Macro ModelsグループはEFGの翌週(7月第3週)の月曜日から木曜日までである。去年まで25年間はAttanasio, Carroll, Rios-Rullのグループだったのだが、今年からKaplan, Hurst, Violanteに変わった。初めての年なので、3人とも気合が入っていたように思う。初日の朝に来てみたら、机といすの配置をどう変えるかを一生懸命考えていた。例年縦長の部屋を使うのだけれども、これまでは、どのグループも、長い辺の一方の端にスクリーンをおいて、その前で発表するので、後ろに座っていると遠くて見えずらいし、議論もあまり聞こえないという問題点があった。彼らもそれを認識していたらしく、長い辺の真ん中にスクリーンをおいて、その前に左右にV字状に机といすを並べて、どこに座っても比較的スクリーンおよび発表者から近い感じになるようにしていた。これはヒットだったと思う。個人的には、大きな部屋のセミナーだと人がばらけるせいか、あまり議論が活発にならないような気がしているので、それなりに大きな部屋の場合、全部の椅子からスクリーンまでの距離の和を小さくできる方がいいと思っている。このV字型セットアップはまさにそれを実現していたと思う。

基本的にマイクロデータを使ったマクロの研究というのは流行りなので、このセッションは大盛況だった。オーガナイザーの交代に際して参加者を絞る方向にしたらしく、招待状の数も絞り気味と聞いていたが、毎日ほぼすべての椅子が埋まっていて、質疑応答も活発だった。

Micro Data and Macro Modelsのもう一つの工夫は、各発表45分なのだけれども、最初の5分と最後の2分は質問禁止にしたことである。最初の5分は、ミネソタ系のセミナーでよくありがちなのだが、イントロで質問責めにあって、全然進めないという事態を避けようという配慮。最後の2分は、まぁ、最後まで到達できないことがほとんどだろうけれども、最後位は結論を話させてあげようという配慮である。これも、結構、効果的だなと思った。

というわけで、これから少しづつ面白かったペーパについてちょっと触れていきたい。

Papers at AEA, Part 3

もう一回だけ、フィラデルフィアのAEAで見たペーパーについてのメモ。今回は、Valerie Rameyがオーガナイズした「伝統的・非伝統的政策の財政乗数」セッションのペーパーを紹介。

"The Effects of Tax Changes at the Zero Lower Bound: Evidence from Japan"
Wataru Miyamoto, Thuy Lan Nguyen, Dmitriy Sergeyev
日本の財政政策の変更がGDPに与える影響をナラティブ・アプローチ(新聞や官報などに書かれた情報を元に、財政政策の変化を識別するアプローチ。景気の変化と関係ない財政政策の変更を書かれた情報を元に識別することで、(景気の変化に反応したわけではないという意味で)外生的な財政政策の変化だけを見ることができる)を使って分析。特にゼロ金利以前と以後のデータを比較して、ゼロ金利の元では財政政策の効果が強くなるというゼロ金利のモデルの特徴がデータで支持されるかに注目。財政政策の変化がGDPに与える影響はゼロ金利以前と以後の期間で有意に変わらなかった。討論者も指摘していたけど、全部で3回しか引き上げしてないのに消費税引き上げの効果をゼロ金利実施前と実施後で比較とかしちゃあまずいのでは。

"Unconventional Fiscal Policy"
Francesco D'Acunto, Daniel Hoang, Michael Weber
ドイツで2005年にVAT(消費税と思えばよい)の税率が2007年に3パーセンテージポイント引き上げられることが急に公表された。著者らはこれを「非伝統的な財政政策」と呼んで、その効果を分析した。このアナウンスメントの結果、ドイツでは(VAT税率引き上げが実施されなかった他のEU諸国(=コントロールグループ)と比べて)2006年に翌年の期待インフレ率が上がり、実際に2007年のインフレ率も上がった。アナウンスメントの後では(コントロールグループである他のEU諸国に比べて)今は耐久消費財を買うのによい時期だと答えた家計の割合が34%増加した。日本の消費税の引き上げのときもそうだけど、実際にVATの税率が引き上げられた後で耐久消費税の購入が落ち込んだらあまり意味はないのでは。

"What Do We Know About the Effects of Austerity?"
Alberto Alesina, Carlo Favero, Francesco Giavazzi
16のOECD加盟国で過去30年に実施された170の緊縮財政(Austerity)エピソードが、支出の引き下げが中心か増税が中心かによって、GDP等への影響がどのように異なるかを分析したペーパー。緊縮財政が実施されるときにはいろいろな政策がパッケージとして一緒に実施されることにも注意を払っている。支出の切り下げがメインの場合は、軽度の増税も同時に行われることが多いが、GDPへの負の影響はとても小さく(GDP比1%の支出切り下げパッケージはGDPを0.5%下げる)、そして短い(影響は2年程度だけしか続かない)。その上、緊縮財政が不況でない時に行われた場合は、GDPへの負の効果はゼロである。一方、増税がメインとなる緊縮財政パッケージの場合は、支出の切り下げは同時に実施されないことが多いものの、GDPへの負の影響はとても大きい(GDP比1%の増税メインの緊縮財政パッケージはGDPを2%引き下げる)上に、負の影響は長く続く。

Papers at AEA, Part 2

前回に引き続き、SED(Society of Economic Dynamics)がAEAで開催したもうひとつのセッションのペーパーについてとても簡単であまり正確ではないと思うが書いておく。このセッションは"New Approaches in Measuring Uncertainty"というセッションだ。土曜日の昼間という、参加しやすい時間で、スターがそろっていたので、かなり盛況だった。とはいえ、始まるときにNick Bloomがいなかった一方、発表される予定のペーパーと別のペーパーの共著者はいたので、NickがこなかったらNickの別のペーパーを彼に発表してもらおうという話になるなど、AEAっぽいゆるい雰囲気もあった。

"Firm Expectations: Measuring Subjective Uncertainty"
Nicholas Bloom, Steven Davis, Lucia Foster, Brian Lucking, Scott Ohlmacher
Censusの協力の下で、35000の製造業の企業に、売り上げ、雇用、投資、などの予測について、5つのビン(それぞれのビンの確率と数字は自分で記入できる)を使って分布を表現してもらうというサーベイを実施。90%以上の企業はおかしくない(足し合わせて100%になる等)分布を記入した。おかしな回答をした企業は生産性が低かったり成長率が低かった。売り上げ、雇用、投資の平均、分散、歪度、はそれぞれの過去の水準と整合的であり、予測はリーズナブルである。各企業の不確実性についての予測は、それぞれの企業あるいはその企業が属する産業の成長の振れの大きさと相関していた。

"Firms’ Uncertainty and Ambiguity"
Ruediger Bachmann, Kai Carstensen, Martin Schneider
上のペーパーと同じようなサーベイをドイツの製造業に対して行った。来期の売り上げが今期からどのように変わるかの予想、ベストケースとワーストケースにおける売り上げの変化率(この差で不確実性の大きさが測れる)、来期の売り上げが今期と同じくらいの確率、今期より増える確率、今期より下がる確率、を聞いている。それぞれの質問には"I don't know"(わからない)という選択肢があり、ナイトの不確実性(分布自体がわからない)の程度がこれで測れるかもしれない。結果配下の通り。(1) 企業は成長が高い時も低い時も不確実性が高かった。(2) 成長が低い時の方が不確実性に与える影響は大きかった(非対称性)。(3) 企業がレポートした不確実性は、客観的に測れる不確実性より小さかった。つまり企業は外部から観察する経済学者よりよく知っている、等。

"Technological Innovation and the Distribution of Labor Income Growth"
Leonid Kogan, Dimitris Papanikolaou, Lawrence Schmidt, Jae Song
企業の特許申請のデータと、それぞれの企業に働く労働者のデータをリンク(すごい)させ、自分の企業あるいは競争相手の企業で新しい技術革新(特許で把握する)が起こった際に、企業で働くさまざまなレベルの労働者の賃金にどのような影響があるかを測った論文。

"Uncertainty Shocks as Second-moment News Shocks"
David William Berger, Ian Dew-Becker, Stefano Giglio
現時点での株式市場の変動の大きさと将来の株式市場の変動の大きさに関するニュースのどちらが景気に影響を与えるかをVARを使って分析したペーパー。現時点での株式市場の変動の大きさの上昇は景気停滞に先行するが、将来の株式市場の変動の大きさに関するニュースは景気と関連していないことがわかった。

Papers at AEA, Part 1

フィラデルフィアのAEAに参加してきた。あまり多くのセッションには出なかったが、SED(Society of Economic Dynamics)のセッションには出てみたので、まずはBehavioral Macroeconomicsというセッションでプレゼンされたペーパーを軽く紹介しておく。発表者がWoodford, Gabaixという超一流なのに、朝一だったからか、結構すいていて雰囲気も結構ダルそうな感じがAEAっぽい感じであった。

"Macroeconomic Policy Analysis When Planning Horizons are Finite"
Michael Woodford
モチベーションとなっているのは、以下の3つである。

  1. 合理的期待モデルにおいては、フォワードガイダンスを実施するにあたって、先の未来のことを約束すればするほど現在の効果が大きくなるが(前にも触れたフォワードガイダンスパズルである)、実際はそのようなことが起こっていない。
  2. これもフォワードガイダンスであるが、合理的期待モデルにおいては、先の将来のことについて政策変更をするだけで、現在のマクロ経済にすぐ影響を与えるはずであるが、そういうことは起こっていない。
  3. 合理的期待モデルにおいては、Neo-Fisherianが主張するように、低金利低いインフレ率が共存する均衡が存在し、普通の均衡とその均衡の間のジャンプが起こりうる。
このような問題を解決するために、家計は貯蓄などを決定するにあたってT期先までのマクロ経済状況のみを考え、それ以降は、マクロ経済状況が定常状態であるかのように考えて意思決定をするというモデルを提案した。家計などの経済主体が将来のことを考えなければ上のような効果が起こらないのは当たり前だと思うんだけれども、その当たり前のことが結果である。極端な話、経済主体が将来のことを考えない昔のケインズモデルにもどれがすべて解決するので、テクニカルな側面は別としてあまり面白くはない気がするんだけれども、ウッドフォードのような人がやると流行るのであろうか?下はウッドフォードのスライド。

"A Behavioral New Keynesian Model"
 Xavier Gabaix
これモチベーションは似ていて、合理的期待の入ったニューケインジアンモデルでは、将来の政策の変更が現在の景気にあまりに大きな影響を与えてしまうので、例えば、次の期の低い金利を約束したとしても、その85%だけしか経済主体は考慮しないという仮定を置く。各期の政策変更が15%割り引かれるので、先の政策について約束すればするほどその(認識される)効果は小さなものなっていく。よって、うえで言及したフォワードガイダンスパズルも生じない。彼は財政政策の効果も分析しているが、例えば、家計はリカーディアンではなくなるので(減税がされても将来の税率の引き上げは15%割り引かれて認識される)、財政政策の効果は大きくなる。

"Consumer Spending During Unemployment: Positive and Normative Implications"
Peter Ganong, Pascal Noel
JPモルガンチェース銀行に口座を持つ人の2014年から2016年の取引のデータを使って(どうやったらそんなデータがとれるんだろう...)、失業者がどのように支出を行うかを観察し、どのようなモデルであれば観察された行動が再現できるか分析した論文。失業保険を銀行振り込みで受け取る失業者がどのように失業保険を使うかをリアルタイムで観察できる。
上のスライドは、失業した人の消費パターンがどのように変わるかを示している。赤っぽい点線がデータである。最初に落ち込むのが失業したとき。縦の点線の入っているタイミングが6ヶ月後(アメリカでは失業保険は6ヶ月しか出ない)である。失業時には支出は軽く落ち込み、失業保険を受け取っている間は支出額は安定的に推移し、失業保険が切れるとまた消費は落ち込む。上のグラフの実線が、標準的なモデルにおける失業者の消費パターンである。失業している間、失業者は支出をスムーズに減らしていく。モデルの挙動をデータに近づけるには、失業者をhand-to-mouth(毎期毎期収入を使ってしまう)にするか、失業保険がいつ切れるかとかどのくらいの確率で職が見つけられるかについてあまり注意を払わないという仮定を置けばよいという、まぁ、そりゃそうだという議論が行われる。

"Strategic Inattention, Inflation Dynamics and the Non-neutrality of Money"
Hassan Afrouzi
ニュージーランドの企業に、競争相手は何社くらいいるか、経済全体のインフレ率はどのくらいか、自分の産業のインフレ率はどのくらいか、を聞いたという面白いデータセットをもとに書かれた面白い論文。競争相手が少ない企業は、経済全体のインフレ率はあまりよく認識していないものの、自分の産業のインフレ率は正確に認識している。一方、競争相手の多い企業には逆の傾向がみられる。このような結果は、Rational Inattentionと整合的である。競争相手が少なくて競争相手の行動を正確に認識していなければ競争に勝てない企業は自分の産業の動向により注意を払い、マクロ経済全体の動向には比較的注意を払わない。競争相手が多い企業であれば(極端な例として完全競争を考えればよい)、自分の業界の競争相手の動向よりも、比較的マクロ経済状況に注意を払うのが合理的となる。