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NBER Summer Institute: Micro Data and Macro Models (4)

引き続き、NBER Summer InstituteのMicro Data and Macro Modelsで発表されたペーパーのメモ。最後は最終日のペーパー。ほかのセッションも出たが、今回で、NBER Summer Instituteのペーパーについて書くのは終わりになるような気がする。そして余力があれば通常営業に戻る予定である。

Corbae and Glover, "Employer Credit Checks: Poverty Traps versus Matching Efficiency"
アメリカでは、雇用しようか考えている人のクレジットヒストリー(破産したかとか、債務をきちんと返済しているかとかがわかる)をチェックすることが普通に行われている。彼らのペーパーによると、ある人事部の人へのインタビューによると60%の会社でクレジットヒストリーをチェックして採用するか否かを決める材料に使っていた。もし、patientな(将来のことを重視する)労働者とpatientでない労働者がいるとすると、前者の方がクレジットヒストリーはよく、彼らの方が長い目で自分への投資などを行うので、好ましい人材となりうる。ただ、この場合、patientでない労働者は職が見つかりづらくなり、その結果、借金の返済に困ったりして、クレジットヒストリーが下がって、さらに職が見つかりにくくなるという負のスパイラルに陥る状況を生み出してしまう。このような状況を避けるには雇用の決定をする際にクレジットヒストリーを参照するのを禁止すればよいということもできるが、この場合、企業は欲しい人材が採用できなくなるし、クレジットヒストリーが悪くても雇用に影響がないということで期限通りに借金の返済などをするインセンティブが損なわれてしまう。このような複雑な状況を一般均衡モデルで分析した論文である。

Braxton, Herkenhoff, and Phillips, "Can the Unemployed Borrow? Implications for Public Insurance"
行政データ(administrative data)から得られる所得のデータとクレジット関連のデータを組み合わせることで、職を失った人がどのようにクレジットカードなどのクレジットを使っているかをみてみた。すると、職を失った人はクレジットカードでお金を借りることができるし、実際借りていること、および、借り入れしすぎている人は破産することで借金の返済に苦しまずに済んでいることが分かった。(注:理論的には、失業したら破産の可能性が高まるので、クレジットカード会社は借入をできないようにしたくなるはずだけれども、アメリカの場合、クレジットカード保有者の所得のデータは頻繁には得られない(特に失業した人が自発的に所得を報告したりはしない)ので、失業した人もそれ以前に取得したクレジットカードを使い続けることができるということだろう)つまり、クレジットカードは、失業保険のように使えるということである。このことは、クレジットカードが盛んに使われている状況では、最適な失業保険のレベルは低い(クレジットカードが代替してくれるから)ことを示唆している。著者らは、クレジットカードと失業のリスクのあるモデルを構築して、最適な失業保険の金額を計算し、現在のアメリカの水準(彼らによると45%)より低い35%であることがわかった。

どちらのペーパーも個人の異質性のあるマクロモデルの最先端のモデルである。

Argente, Lee, and Moreira, "How Do Firms Grow? The Life-Cycle of Products Matters"
最初に書いておくと、このペーパー、無茶苦茶面白かった。全然知らない分野なんだけど、聞いているだけでわくわくした。ペーパーにはモデルもあった気がするが、モデルはどうでもよくて、データが面白かったので、いくつかデータについて書いておく。

彼らのデータは、2006-2015年の間、全米40,000の小売店で、それぞれの商品のバーコードを使って、何がいくつ売れたかを詳細に記録したものである。さらに、それぞれの商品がどの企業に属しているかもわかる(商品と企業をマッチしている)ので、それぞれの企業がどのような商品に頼っているか、商品の売れ行きは時間とともにどのように変わっていくか、企業は商品をどのように入れ替えていくか、などがわかるというものである。

彼らによると、彼らのサンプルに含まれる企業の売り上げは毎年6%づつ伸びているが、売り上げの増加は新製品によるもの(毎年11%の伸び)である。新製品は、導入された年に売り上げを伸ばすが、その後は、売り上げは普通はコンスタントに落ちていく(既存の製品の売り上げの年平均下落率は6%)からである。

彼らの推定によると、製品の平均的なライフサイクルは以下のようなものである。
売り上げは最初の4年間くらいは増加し、そのあとでは落ちてゆく。但し、このグラフは、売り上げが小さかった商品は早く消えてゆくので、その分ライフサイクルが押し上げられるという影響(composition bias)が入っている。それをコントロールするために、何年売られていたかわかっている商品だけ見て、それぞれの商品を別々に見てみたのが以下のグラフである。
それぞれの線は、その製品が何年売られてたかを示している。どの製品も新製品として導入された後は、売り上げは落ちてゆく。もちろん、息が長かった製品(彼らのデータでは最長は16年)は当初から売り上げが大きい。最初のグラフの当初4年間の上昇は数年しか売られなかった商品がなくなって売り上げの平均が押し上げられたからだとわかる。

では、売り上げを、価格と数量に分解してみると、以下のようになる。
製品のライフサイクルとしては、価格はあまり動かない一方、数量が大きく変わっていく。もちろん、上で上げたようなバイアスが含まれていることは注意してほしい。

次のグラフは、企業が売る商品の数が、企業の年齢とともにどのように変化してゆくかを示している。
予想通り、新しい企業は売っている商品の数も少ないが、企業が年を取るにつれて、打つ商品の数は増えていく。

とりあえずこれくらいにしておくが、とにかく色々なグラフを見ているだけで色々なことを自然と考えてしまう楽しいプレゼンだった。

Krueger and Uhlig, "Neoclassical Growth with Long-Term One-Sided Commitment Contracts"
最後は打って変わって理論系の論文である。いわゆるAiyagariモデルなどは、消費者が締結できる契約を(著しく)制限しているというのが、昔は大きく問題にされてきた。モデルの中の消費者は、所得が高い人が低い人に所得を移転する保険契約(アロー証券でもいい)を取引したいはずなのに、Aiyagariモデルの中では、個々人の直面するショックの結果に依存しない、一定の利子率の債券しか取引できないからである。1990年代には、このようなAiyagariモデルの仮定にミクロ的基礎(micro foundation)を与える研究が流行していたが、最近は、あまり見られなくなった。このペーパーは、最近見られなくなった、そのような流れの論文である。彼らのモデルでは、保険会社が個々の消費者の所得のショックに応じて支払い額が変わる(所得が低かった消費者は高い金額を受け取って所得が高かった消費者は低い金額を受け取る)保険契約を売るんだけれども、消費者の方は後で保険契約から抜けることができる(つまり保険会社の側しか契約にコミットできない)モデルを構築した。この状況では、保険会社も、所得が高かった消費者が保険から抜けてしまうことも考慮して、完全に所得の変動を抑える(保険金支払額の変化で相殺する)契約を売ることができないので、完備契約とはならない(消費は個人のショックに応じて変動する)。つまり、Aiyagariモデルと同じような特徴が導き出せる。このようなモデルは大体複雑になって、いろいろな要素を加えることができないんだけれども、ある仮定の下では、モデルの解が解析的に得られるのが売りである。ただ、このような不完全な保険契約なんて実際に売ってないじゃないか、という質問が出て、皆同意しているように見えたのは感慨深かった。1990年代だったら、逆に、Aiyagariモデルを使うと、外生的にどのような資産が取引されるか仮定してよいのか、という質問がしょっちゅう出たからである。時代の変化を感じさせた。

NBER Summer Institute: Micro Data and Macro Models (3)

引き続き、NBER Summer InstituteのMicro Data and Macro Modelsで発表されたペーパーのメモ。今回は3日目。

Boerma and Karabarbounis, "Inferring Inequality with Home Production"
所得の不平等が注目を集めているが、不平等を考えるに当たっては所得だけ見ればいいというものではない。(著者らの例ではないが)、2人いる経済で、1人は会社で働いて給料をもらって、もう1人は農業を営んで自給自足の生活をしているとすると、(データで把握される)「所得」だけ考えると後者は所得ゼロなので、不平等が大きい用に見えるが、消費(あるいは幸福度)は前者も後者も同じかもしれない。著者らは、所得で把握されない、家計内生産(home production)も考慮すると不平等の度合いどのように異なってくるかを計算した。使ったデータは、CEX(家計レベルの消費を細かく記録したマイクロデータセット)とATUS(American Time Use Survey、家計レベルでどのように時間を使っているかを詳細に追ったマイクロデータセット)の組み合わせ。著者らの分析によると、所得の高い家計のほうがより多くの時間を家計内生産に費やして消費しているので、不平等の度合いは更に大きくなるとのこと。予想される結果は、所得が低ければその分家計内生産生産でカバーしてるように考えるのが自然なので、家計内生産も含むと不平等の度合いは小さくなるのではと考えられるがその逆の結果となっている。但し、細かくは見ていないけれども、何を家計内生産に含めるかに大きく寄るようだ、というのが議論を聞いたうえでの印象。所得が高くて、より多くの時間を子供に割くことができれば、子供との時間は家計内生産に含まれるので、家計内生産の不平等は大きく出るというのが強く出ているようだ。

Eisfeldt, Falato, and Zhang, "The Rise of Human Capitalists"
著者らは労働の対価として賃金ではなくて、会社の株やストックオプションを受け取る労働者を「人的資本家」と定義して、人的資本家がアメリカの経済に占める割合が近年高まってきていることを指摘。所得面のGDPの内訳を見たときに、労働者が受け取る賃金のシェア、および、資本が受け取るレンタル料のシェアが低下してきていることは最近注目を浴びている(例えば最近このポストこのポストでも触れた)が、その少なくとも一部は、(主にスキルの高い)労働者が賃金という形ではなくて会社の株やストックオプションという形で報酬を受け取る傾向が高まっているからだと主張している。

Caucutt, Gunner, and Rauh, "Is Marriage for White People? Incarceration, Unemployment, and the Racial Marriage Divide"
25-54歳の白人女性で結婚したことのある(あるいは同棲している)人の割合は1970年には94%であったのが2013年には79%まで低下した一方、黒人女性で結婚した異なるひとの割合は89%から51%まで大幅に下落した。この違いは(何らかの理由で、黒人女性は黒人男性を好み、白人女性は白人男性を好むという仮定が重要だが)、黒人男性で刑務所に入っている人の割合が高まったこと、および職がない人の割合が高いことで説明できることを示した。

Bloom, Guvenen, Pistaferri, Salgado,-Ibanez, Sabelhaus, Song, "The Great Micro Moderation"
マクロ経済学の最近のビッグデータの流行を牽引するオールスターによる論文。アメリカ(及び他の国)における過去数十年の労働者間の賃金の不平等の拡大が、例えば院卒・大卒の平均給料の伸び率が高卒(あるいは高卒以下)の平均給料の伸び率を大幅に上回っていたことによる(あるいは他の、労働者間の目に見える違いで説明できる)ものなのか、あるいはここの労働者が直面するリスク(所得の不安定性)が拡大したからなのかについては、おそらくは両方とも拡大したというのが一般的に受け止められている結論だと思う。但し、これまでの分析は、誰でも利用できるが、把握されている労働者の数は比較的小さいデータセットを用いてなされてきた。この論文では、社会保障局(Social Security Administration)が持っている詳細な所得データを用いて、同じ分析を行ってみた。主要な発見は以下の4つである。(1) 性別・生まれ年・年齢が同じ労働者の間の賃金の成長率の分散(賃金の不安定性と解釈できる)は1980年から2013年の間、大きく低下した。(2) この低下は、企業間の、雇用変化率及び平均賃金上昇率の分散の低下と同時に起きている。(3) 労働者の賃金の成長率の分散の低下は、転職する労働者の割合の低下で説明できる(彼らのデータセットは個々の労働者が毎年どこで働いていたかを追うことができるすごいものなのだ)。その一方、転職した労働者、あるいは、転職しなかった労働者の賃金上昇率の分散はあまり変化していない。(4) 労働者の賃金の上昇率の分散の低下は、企業の雇用変化率の分散の低下で「説明」できる。またしても、既存の結果に対して、違うように見える結果を突きつけた論文である。

NBER Summer Institute: Micro Data and Macro Models (1)

前回に引き続いて、NBER Summer Instituteで見たペーパーのメモ。今回は、Hurst, Kaplan, Violanteによる新しいグループ"Micro Data and Macro Models"の初日のペーパーについてのメモ。

Ottonello and Winberry, "Financial Heterogeneity and the Investment Channel of Monetary Policy"
最近は、金融政策の効果を、どのような家計にどのような影響があるかをデータで見て、それをもとに異質性の入ったモデルをつくることが行われてきているが、その企業バージョン。自然に思いつく次のステップといえる。アメリカの公開企業のデータ(Compustat)を使って、どのような企業が金融政策に反応して投資を増やしたり減らしたりするかを見てみたところ、借り入れ額が小さくて(レベレッジが効いていなくて)、格付けが高い企業の投資の反応の方が大きかった。借り入れが大きくて格付けが低い企業の方が、金融政策の効果で借り入れ制約が引き締まったりゆるんだりして投資額を大きく変化させると考えることもできるので、ある意味驚くべき結果といえる。この結果をもとに、企業の異質性のあるNK-DSGEモデルを作って、彼らのデータと整合的になる(カリブレーションの仕方によるのかな)ことを示した。金融政策の効果は、企業の格付けや借入度合いの分布によって異なってくるというインプリケーションは面白い。

Bahaj, Foulis, Pinter, and Surico, "The Employment Effects of Monetary Policy: Macro-Evidence from Firm-Level Data"
発表は見逃してしまったので、1月のAEAのスライドを見てみた。上のペーパーと同じように、金融政策の影響が異なる企業に対してどのように異なっているかを、イギリスのデータを見て分析している。また、投資ではなく、それぞれの企業の雇用がどのように金融政策によって影響を受けるかを見ている。金利の引き上げに対して、総雇用者数は当然マイナスに反応するが、若い企業(設立から10年以内)、小さい企業(雇用者数1000人未満)、格付けの低い企業の方がマイナスの影響は大きく、そういう企業の方が金利引き上げで借入制約がよりタイトになって舞いますの影響が大きくなるというチャンネルと整合的上のペーパーと反対に見える結論なので面白かったと皆が言っていた。アメリカとイギリスの違い、Compustatのカバレッジの狭さ、投資と雇用の違い、分析手法の違い、など、いろいろ結果が異なる理由となりうるものはあるが、今後の展開に期待である。

Dupor, Karabarbounis, Kudlyak, and Mehkari, "Regional Consumption Responses and the Aggregate Fiscal Multiplier"
アメリカの大不況の時に実施された大規模な財政拡張政策であるアメリカ復興・再投資法(American Recovery and Reinvestment Act)のもとで配分された金額が各州で異なることを利用して、州レベルで財政支出を1ドル増やしたときに民間支出がどの程度増えるか(財政乗数の消費バージョンである)を計算したところ$0.18であった。この結果を国全体の乗数に変換するため、州の違いを取り入れたDSGEモデルを作って国レベルの財政消費乗数を計算したところ$0.4であった。つまり、州レベルの(消費)乗数よりも国レベルの乗数は大きかった。これは、州の間の貿易が活発化するからである。

Auclert, Rognile, and Straub, "The Intertemporal Keynesian Cross"
ケインジアンモデルの乗数効果のようなものを、一般的なDSGEモデルの中で再解釈しているといえばいいのかな。よくわからなかった。誰か教えてほしい。例えば金融政策の効果は、静学的なモデルで考えれば、MPC(限界消費性向)が高ければ高いほど大きいと考えられるが、動学的なモデルを考えると、金融政策の「総」効果は、毎期毎期の消費の反応の合計(intertemporal MPC)で測ることができる。これが大きければ大きいほど、昔のケインズ経済学の乗数効果のように、静学的なMPCは一定でも、金融政策の効果は大きくなると言える。

Are U.S. Mark-ups Really Increasing?

ちょっと前に、De LoeckerとEeckhoutによる話題のペーパーを紹介した。基本的な問題意識としては、アメリカ(や他の国)において、経済の「ダイナミズム」が失われつつあるのではないかというものである。例えば、企業の新規参入のペースは以下のグラフで見られるように、下がってきている(出典はここ)。新しい企業が経済成長をけん引するという考え方に基づくと、スタートアップの減少は、経済の「ダイナミズム」を失わせる要因になっているのではないかと考えることもできる。その他にも、別の企業に移る労働者の割合も減少傾向にある。


De LoeckerとEeckhoutは、上場企業のマークアップ率が1980年代ごろまでは18%程度だったのだけれども、2010年以降は60%を超えるレベルに上昇し、67%まで達したというデータを示した。マークアップ率というのは、簡単に言うと、(あるモノの価格)を(そのモノ1単位を追加的に生産するためのコスト)で割ったものである。もしマークアップ率が18%ならば、生産にかかるコストに18%上乗せした価格で商品が売れるということである。単純な経済モデルを考えれば、ある企業が何らかの理由で大きな市場支配力をもっていれば、その企業は生産コストを大幅に上回る価格を付けても競合他社に顧客を奪われる心配はない。よって、高いマークアップ率というのは市場支配力を反映したものだと考えることができる。彼らのペーパーは、アメリカにおいて大企業の市場支配力が高まっていることで、経済の「ダイナミズム」が損なわれているのではないかという議論を巻き起こしている。下のグラフが、De LoeckerとEeckhoutのメインの結果である。



前のポストで紹介したとおり、労働分配率の低下(GDPのうちの労働者の取り分)が低下傾向にあるのも、企業の価格支配力の上昇によって引き起こされているという理論は簡単に構築できる。

ただ、このペーパーに対して、彼らのマークアップ率の計算方法はおかしいんじゃないかという人が結構出てきている。このような主張をしているシカゴのビジネススクールのTrainaによる最新のワーキングペーパーの内容がわかりやすいブログ記事に出ていたのでこれについてメモしておく。彼も、De LoeckerとEeckhoutと同じように、アメリカの上場企業のうち、金融とユーティリティ(電気・水道・通信等)セクターを除いた企業のマークアップ率を計算してみた。大きな違いは、De LoeckerとEeckhoutはモノの生産コストとしてCost of Goods Sold (COGS)というデータを使ったのに対し、TrainaはOperating Expenses (OPEX)というデータを使ったという点である。COGSはモノの生産に直接関連する材料費や労働のコストだけを含んでいる。その一方、OPEXはCOGSに加えて、SGA(Selling, General and Administrative Expenses)も含んでいる。SGAは、英語からわかるように、モノの生産に間接的に必要なマーケティングコストや事務のコストを含んでいる。下のグラフは、De LoeckerとEeckhoutが計算したマークアップ率(赤、生産コストとしてCOGSを使っている)とTrainaが計算したマークアップ率(青、生産コストとしてOPEXを使っている)を比べたものである。

Trianaによると、生産コストとして、より包括的なデータであるOPEXを使うと、マークアップ率は1980年代以降緩やかな上昇傾向にあるものの、最新の水準は1950年代ごろの水準(15%)と変わらないことがわかる。つまり、マークアップ率は過去25年間上昇傾向にあるものの、その上昇の度合いは歴史的に見たことがないレベルでは全くないということである。

では、なぜこのような違いが生み出されているのか?それは、生産のコストにおける、SGA(マーケティングや事務のコスト)の割合がどんどん高まっているからである。上のグラフの緑の線は、OPEX(Trianaがマークアップ率を計算するのに使ったコストデータ)におけるCOGS(De LoeckerとEeckhoutが使ったコストデータ)の割合の変化を示している。1950年には狭義の生産コストであるCOGSは広義のコストであるOPEXの89%程度を占めていたが、その割合はどんどん低下し最新のデータでは78%程度しか占めていない。つまり、広義の生産コストで計算したマークアップ率はあまり大きく変わっていないんだけれども、狭義の生産コストを使うと、その重要性は時とともに低下し続けているので、マークアップ率は大きく上昇したように見えるのである。アップルのような企業を考えると、マーケティングのコストが重要になってきているのは、感覚的にわかりやすいであろう。

では、どちらのコストデータを使うのが正しいのであろうか?マークアップ率の計算に使うのは、固定コストを除いた、追加的な生産に必要なコストなのだけれども、SGAは固定コストも含んでいる可能性が高い。Trianaは固定コストが幾分SGAに含まれていることは問題ではないという証拠を示しているが、ちょっと細かい議論なので省略する。

関連したデータで、もう一つ紹介しておくと、Karl SmithはDe LoeckerとEeckhoutの計算を、マークアップ率の平均を取るときに、企業の大きさでウェイト付けをせずに計算してみた。つまり、彼の平均では、小さい企業のマークアップ率がより大きく平均に反映されているのである。下のグラフがその結果である。
赤の線がDe LoeckerとEeckhoutの結果に対応しており、黒の線が、企業のサイズでウェイト付けしない場合のマークアップ率である。面白いことに黒の方が上である。つまり、一般的な考え方に反して、小さい企業の方がマークアップ率が高いのではないか、と彼は主張している。彼の考えるストーリーは、ウォルマートのような大きな企業は価格を切り下げるのでマークアップ率は小さいけれども、小さい企業はある小さい市場に特化(例えば、クラフトービールのような感じかな)して、高いマークアップを維持できるようになったのではないか、というものである。彼の分析はCOGSによるものなので、COGSとOPEXの違いを考えると解釈も変わってくるかもしれないが、面白いので言及しておく。

今後は、別のやり方で計算したマークアップ率がでてきたり、どちらのコストデータを使うべきなのかについての議論が緻密化されたり、していくのだろう。そして、もし、マークアップ率があまり変わってないという結論に達したならば、なぜそれでも企業の利益が増加しつつあるのかという残された疑問に答える必要性が出てくるのだろう。

De LoeckerとEeckhoutのペーパーはそれでもトップジャーナルに行く可能性が高いらしい。データはちょっと怪しいかもしれないけれども、企業の市場支配力という視点をマクロの分析に持ち込むきっかけを作ったということが大きく評価されるのだろう。実際に、このペーパーはとてもstimulatingだと思う。このことを考えると、「何であれ君の得た結果は将来覆される可能性が高いのだから、正しいペーパーを書こうとするな。間違っているかもしれなくても、おもしろい新しい視点を導入し、その視点をできる限りサポートする方法を考えろ。」とある人に言われたのを思い出した。

Declining Labor Share

NBER Reporter(NBERに所属する研究者が自分の最近の研究の内容をテクニカルになり過ぎないように説明している刊行物)でLoukas KarabarbounisとBrent Neimanが、労働分配率の低下について書いていた(リンク)のでメモしておく。

労働分配率というのはGDPのうちどの割合が労働者に(主に賃金として)分配されているかを示している。普通は2/3くらいと考えられている。この割合が安定しているというのは、マクロ経済における重要な事実のひとつと考えられてきた。モデルで言えば、代表的企業の生産関数にコブ・ダグラス型の生産関数を使う根拠となっている。

しかし、最近の研究では、この割合が低下してきていることが示されている。GDPにおける労働者の「取り分」が低下しているというのは、所得不平等の度合いが拡大しているという事実とも関連している。労働分配率が低下するということは、直接あるいは間接的に企業を保有している人(大体は高所得者)に分配されうる所得が増えることを意味するからである。

下のグラフは、アメリカにおいて1975年以降の労働分配率がどのように変化してきたかを示している。赤の点線は経済全体の労働分配率、黒の実線は、法人企業のみの労働分配率である。企業のみの労働部分配率を見ているのは、政府や非法人企業の収入を資本の取り分と労働者の取り分に分けるのが難しいからであるが、どちらも同じように動いている。
経済全体の労働配分率は65%程度の水準から60%近くまで落ち込んだことが見て取れるであろう。この傾向は、アメリカだけではない。次のグラフは、日本、中国、ドイツを示している。いずれも低下傾向にある。
次のグラフはもっと多くの国について、1975年から2012年の労働分配率の変化率をまとめて表示したものである。
労働分配率が上がった国もある(たとえば韓国、ブラジル)が大半の国、特に先進国においては労働分配率は低下した。彼らは一連の研究において、この低下の理由を分析してきた。以下はそのハイライトである。

  1. 労働分配率の低下は大部分の国で起こっているので、ある国・地域特有の政策・現象では説明できない。労働組合が強い国(スカンジナビア諸国などの大陸ヨーロッパ)でも起こっている(労働組合の力の低下はどの国でも同時並行的に起こっていると思うのだけれども…)
  2. 労働分配率の低下の一部は、産業の構造変化(労働分配率が低い企業が高い企業に比べて拡大した)で説明できるが、労働分配率の低下は大部分の産業の内部で起こっているので、それだけではない。
  3. もちろん、産業の内部において、労働分配率が低い企業が拡大し労働分配率の高い企業が縮小したというストーリーは彼らのデータによって棄却されない。
  4. 彼らが重視しているチャンネルは、生産が労働を多く使うものから資本を多く使うものへシフトしたというものである。ちょうど、労働分配率の低下と時を同じくして、IT関連の資本の価格が低下した。もし、資本と労働の代替の弾力性が1を超えていれば、資本の価格が例えば1%低下したときには、資本を1%以上多く使う生産様式にシフトするので、収入のうち資本(労働)に支払われる部分が上昇(低下)し、労働分配率は低下することとなる。
  5. と言うわけで、重要なのは、資本と労働の代替の弾力性の大きさなのであるが、一国の中のデータを使うと弾力性の推定値は1を下回るものの、彼らがたくさんの国とたくさんのセクターのデータを使ってえた推定値は1.25であった。この弾力性の推定値を使うと、労働分配率の低下の半分は(ITなどの)資本の価格の低下によって説明できる。
  6. 残りの半分は何によって説明できるだろうか?企業のマークアップ率の上昇、それに伴う利益の増加、によるものではないか。
労働分配率の低下と関連している重要な結果として、企業の貯蓄が大きく増加したということが挙げられる。1980年ごろは家計の貯蓄が企業の投資に使われていたが、企業の利益が増加する一方、配当の伸びはそこまで大きくなかった結果、企業の内部留保は大きく拡大した。
上のグラフは、労働分配率が減少した一方、労働に分配される以外の部分がどこに行ったかを示している。資本への支払いや税支払いはあまり増加していない一方、企業の内部の貯蓄される金額は増加してきている。企業セクターが経済における借り手から貸し手に変わったことが経済全体にどのような影響を与えるかは今後の研究課題としている。

Papers at AEA, Part 1

フィラデルフィアのAEAに参加してきた。あまり多くのセッションには出なかったが、SED(Society of Economic Dynamics)のセッションには出てみたので、まずはBehavioral Macroeconomicsというセッションでプレゼンされたペーパーを軽く紹介しておく。発表者がWoodford, Gabaixという超一流なのに、朝一だったからか、結構すいていて雰囲気も結構ダルそうな感じがAEAっぽい感じであった。

"Macroeconomic Policy Analysis When Planning Horizons are Finite"
Michael Woodford
モチベーションとなっているのは、以下の3つである。

  1. 合理的期待モデルにおいては、フォワードガイダンスを実施するにあたって、先の未来のことを約束すればするほど現在の効果が大きくなるが(前にも触れたフォワードガイダンスパズルである)、実際はそのようなことが起こっていない。
  2. これもフォワードガイダンスであるが、合理的期待モデルにおいては、先の将来のことについて政策変更をするだけで、現在のマクロ経済にすぐ影響を与えるはずであるが、そういうことは起こっていない。
  3. 合理的期待モデルにおいては、Neo-Fisherianが主張するように、低金利低いインフレ率が共存する均衡が存在し、普通の均衡とその均衡の間のジャンプが起こりうる。
このような問題を解決するために、家計は貯蓄などを決定するにあたってT期先までのマクロ経済状況のみを考え、それ以降は、マクロ経済状況が定常状態であるかのように考えて意思決定をするというモデルを提案した。家計などの経済主体が将来のことを考えなければ上のような効果が起こらないのは当たり前だと思うんだけれども、その当たり前のことが結果である。極端な話、経済主体が将来のことを考えない昔のケインズモデルにもどれがすべて解決するので、テクニカルな側面は別としてあまり面白くはない気がするんだけれども、ウッドフォードのような人がやると流行るのであろうか?下はウッドフォードのスライド。

"A Behavioral New Keynesian Model"
 Xavier Gabaix
これモチベーションは似ていて、合理的期待の入ったニューケインジアンモデルでは、将来の政策の変更が現在の景気にあまりに大きな影響を与えてしまうので、例えば、次の期の低い金利を約束したとしても、その85%だけしか経済主体は考慮しないという仮定を置く。各期の政策変更が15%割り引かれるので、先の政策について約束すればするほどその(認識される)効果は小さなものなっていく。よって、うえで言及したフォワードガイダンスパズルも生じない。彼は財政政策の効果も分析しているが、例えば、家計はリカーディアンではなくなるので(減税がされても将来の税率の引き上げは15%割り引かれて認識される)、財政政策の効果は大きくなる。

"Consumer Spending During Unemployment: Positive and Normative Implications"
Peter Ganong, Pascal Noel
JPモルガンチェース銀行に口座を持つ人の2014年から2016年の取引のデータを使って(どうやったらそんなデータがとれるんだろう...)、失業者がどのように支出を行うかを観察し、どのようなモデルであれば観察された行動が再現できるか分析した論文。失業保険を銀行振り込みで受け取る失業者がどのように失業保険を使うかをリアルタイムで観察できる。
上のスライドは、失業した人の消費パターンがどのように変わるかを示している。赤っぽい点線がデータである。最初に落ち込むのが失業したとき。縦の点線の入っているタイミングが6ヶ月後(アメリカでは失業保険は6ヶ月しか出ない)である。失業時には支出は軽く落ち込み、失業保険を受け取っている間は支出額は安定的に推移し、失業保険が切れるとまた消費は落ち込む。上のグラフの実線が、標準的なモデルにおける失業者の消費パターンである。失業している間、失業者は支出をスムーズに減らしていく。モデルの挙動をデータに近づけるには、失業者をhand-to-mouth(毎期毎期収入を使ってしまう)にするか、失業保険がいつ切れるかとかどのくらいの確率で職が見つけられるかについてあまり注意を払わないという仮定を置けばよいという、まぁ、そりゃそうだという議論が行われる。

"Strategic Inattention, Inflation Dynamics and the Non-neutrality of Money"
Hassan Afrouzi
ニュージーランドの企業に、競争相手は何社くらいいるか、経済全体のインフレ率はどのくらいか、自分の産業のインフレ率はどのくらいか、を聞いたという面白いデータセットをもとに書かれた面白い論文。競争相手が少ない企業は、経済全体のインフレ率はあまりよく認識していないものの、自分の産業のインフレ率は正確に認識している。一方、競争相手の多い企業には逆の傾向がみられる。このような結果は、Rational Inattentionと整合的である。競争相手が少なくて競争相手の行動を正確に認識していなければ競争に勝てない企業は自分の産業の動向により注意を払い、マクロ経済全体の動向には比較的注意を払わない。競争相手が多い企業であれば(極端な例として完全競争を考えればよい)、自分の業界の競争相手の動向よりも、比較的マクロ経済状況に注意を払うのが合理的となる。

Rising Big Firms and Declining Labor Share

ここ20年程度、日本やアメリカを含む多くの国で、(メディアンという意味での)平均的な家計の所得があまり増えていないというようなことがいわれている。このことが、いわゆる「閉塞感」や「経済状況への不満」につながっているのかもしれない。一方、国の総所得(実質GDP)は過去ほどのスピードではないにしても、トレンドとしては増え続けている。

ではなぜ、国の総所得は増え続けているのに、平均的な家計の所得は増えていないのか?わかりやすくするために、国には生産性の異なる2人の労働者しかいないものとして、国の総所得を以下のように分けてみよう。

(0)国の総所得=(1)資本に配分される所得+(2)企業の利益+(3)生産性の高い労働者に配分される所得+(4)生産性の低い労働者に配分される所得

(1)は機械などを保有している人がその生産の対価として受け取る収入である。(4)が最初に書いた、平均的な家計の所得を捕捉している。また、(3)+(4)が総所得に占める割合は労働分配率(labor share of income)と呼ばれ、(1)が総所得に占める割合は資本分配率(capital share of income)と呼ばれる。このような分解をすると、総所得が増えているのに、平均的な家計の収入が増えていない理由は以下のように考えることができる。(A)労働分配率が低下している、(B)労働分配率は減っていなくても、生産性の高い労働者の取り分が増えている。今回は、なぜ労働分配率が低下しているかについて分析した最新のペーパー2つについて簡単に書いてみる。

Autor, Dorn, Katz, Patterson, Van Reenenは、最近のNBERワーキングパーパーとして出版された論文("The Fall of the Labor Share and the Rise of Superstar Firms")において、多くの先進国で労働分配率に何が起こったかを分析した。彼らによると、1982年から2012年の30年間で、労働分配率は67%から61%に低下した。大体カリブレーションを習うと、労働分配率をあらわすパラメーターは大体2/3と習うが、それが67%という数字に対応している。しかし、彼らによると、今では67%という数字から10%程度低下しているということになる。更に、彼らは、このような労働分配率の低下は全ての産業・企業で起こったのかという疑問に答えるため、企業レベルのマイクロデータを使って、労働分配率の過去30年の変化を分析した。彼らによると、各産業・企業の労働分配率はあまり変っていないけれども、労働分配率の低いスーパースター企業が経済に占めるしシェアが高まったことが、マクロで見た労働分配率の低下に貢献していることがわかった。彼らのスーパースター企業というのは、売り上げに占める利益の割合が高く賃金の割合が低い企業である。アップルのような企業を想像すればよいのかな。彼らによると様々な産業において、アップルのような、相対的に利益が大きく労働分配率の低い企業のマーケットシェアが高まってきたことで、マクロで見た労働分配率は下がってきているということである。

次の疑問は、このような変化はなぜ起きたかということである。彼らによると、このようなスーパースター企業のシェアの高まりは多く国で同時並行的に起きている。各国が同じようにスーパースター企業優遇政策をとってきたとは考えにくいことから、このような労働分配率の低下は政策の結果ではなく、おそらくは、スーパースター企業が1人勝ちすることを容易にした技術革新の結果であろうと分析している。但し、著者らは、このようなスーパースター企業を生じさせた原因が技術革新だとしても、大きなマーケットシェアを持つに至ったスーパースター企業がシェアを生かして競争を阻害することで、労働分配率の回復を妨げたり、あるいは更なる低下を生み出す可能性があることに警鐘を鳴らしている。

De LockerとEeckhoutは最新のNBERワーキングペーパー("The Rise of Market Power and the Macroeconomic Implications")において、アメリカの上場企業におけるマークアップ率(売値と減価の比率、大雑把には利益率と考えてもよい)の平均が1960年から2014年の間にどのように変化したかを計算した。彼らの採用した計算手法にはいろいろイシューがあるんだけれどもここでは割愛する。彼らが計算したマークアップ率の平均は以下のグラフで示される。


1960年から1980年ごろまではマークアップ率は18%程度(グラフでは1.18)程度の水準にあったが、そこから急上昇し、2014年にはマークアップ率は67%に達した。ラフにいうと、100円の原価に対して、1980年までは18円の利益を乗せていたのが、2014年には67円も乗せられるようになったということである。

ところで、マークアップ率というのは、必ずしも利益率と同じように考えることはできないものの、著者らは、このようなマークアップ率の変化は、経済全体で集計された配当の総額の変化と対応していると主張している。以下のグラフは、マークアップ率の動きと配当の総額の動きを重ね合わせている。著者らは、マークアップの上昇は配当の総額の上昇と同時に起こっており、(大)企業の市場支配力が1980年以降上昇した結果マークアップも高まったというストーリーと整合的であると主張している。

更に、著者らは、簡単なモデルを使って、マークアップ率が何らかのショックの結果高まった場合に、マクロ経済に何が起こりうるかという分析を行い、以下のことが起こりうると主張した。これらはいずれもアメリカで近年起こっていることである。もちろん、別のショックが原因でこれらのことが起こった可能性も十分にあるし、そもそも市場支配力が高まったせいでマークアップ率が上昇したのかもわからないけれども、少なくとも、(大)企業の市場支配力が増した結果、高いマークアップをつけることが可能になり、実際にアメリカで起こっている様々なマクロ経済のトレンドが引き起こされたというストーリーと整合的であるといえる。

  1. 労働分配率の長期的な低下傾向((2)の割合が高まることによる(3)+(4)の割合の低下)
  2. 資本分配率の長期的な低下傾向((2)の割合が高まることによる(1)の割合の低下)
  3. 生産性が低い労働者の賃金の低下傾向((4)の低下に対応している)
  4. 労働参加率の長期的な低下傾向(賃金の低下の結果である)
  5. 労働市場のフロー(労働者の動き)の長期的な低下傾向(賃金が低下することで労働者が高い賃金を求めて労働市場で動く頻度が低下する)
  6. 労働者の移住の頻度の長期的な低下傾向(同様に、労働者が高い賃金を求めて移住する頻度が低下する)
  7. 実質GDP成長率の長期的な低下傾向(労働者がその生産性を生かせる職に移る頻度が下がることで経済全体の生産性が停滞する)

Between-Firm and Within-Firm Wage Inequality

SED(Society of Economic Dynamics)の年次総会に顔を出してきた。日本人の方もちらほら発表していたり、参加したりしていた。マクロではNBERが開催する一連の学会と並んでもっともレベルの高い学会なので、もっと発表者・参加者が増えるとうれしい。ここで見聞きしたペーパー、 感じたことについてはまた追々書こうと思う(とか言っていつも書かないで終わるのだけれども…)。

今回は、最近話題のペーパーについてちょっとだけふれる。Song, Price, Guvenen, Bloomによる"Firming Up Inequality" だ。Guvenenは最近、Songを通じてのみアクセスできると思われる税申告書をベースとするデータ(Social Security Administrative Data)を使って、所得の不平等についてたくさんの論文を書いている。Songは基本的にデータを提供することで名前を載せているのだと思っていたら、このペーパーではアルファベット順を無視して筆頭著者となっている。興味深い。

そんなことはさておき、このペーパーでは、労働者側の所得のデータに、企業を特定する情報が含まれていることから、アメリカで1970年代ごろから顕著に上昇した所得の不平等の増加が、「企業内」の所得不平等の増加によるものか、「企業間」の所得の不平等によるものか、について分析をしている。主要な結果は以下の2つのようだ。

1.1978年から2012年の所得の不平等度合いの上昇は、全て「企業間」の所得の差の増加によるものだとわかった。

2.逆に、「企業内」における所得の格差は1978年から2012年の間ほとんど変化していないことがわかった。この発見は、CEOの所得が他の労働者に比べて大きく増加した(ことが所得の不平等の一因である)とする既存の研究とちょっと相反した印象を与える。

多分本文を読めばわかるのだろうが、College Premium(大卒の労働者と大学を出ていない労働者の間の賃金の格差)が同じ時期に大きく上昇したこととどのように整合性を取れるのだろうか?このような、いろいろなことを考えさせられる研究であることは間違いない。日本でも同じような研究ができると面白いと思う。

RED on Money, Credit, and Financial Frictions

AEJ Macroの特集号とほぼ時を同じくして、今度はAEJ Macroと競合しているRED(Review of Economic Dynamics)が「通貨、信用、金融摩擦」という特集号を出した。このペーパーはAEJ Macroの特集号に入ってないのかと思っていたペーパーの多くがこっちに入っていたので納得している。個々のペーパーについて深く触れる時間はないので、軽くそれぞれのペーパーの内容をメモしておく。

Household Leveraging and Deleveraging
by Alejandro Justiniano, Giorgio Primiceri & Andrea Tambalotti
2000年から2007年の間に家計の負債は大幅に増加して、2007年以降は大幅に縮小したが、その背後にあるものは何かについてDSGEモデルを使って分析した論文。彼らの分析によると、担保制約条件(Collateral constraint)がゆるくなったりきつくなったりすることで生み出される負債の額の増減は、データの動きを説明するには弱すぎる。モデルによると、負債の額の大幅な増減は、担保制約条件の変動でなく、住宅価格が直接変化することで生み出されたと考えられる。いずれにしても、モデルによると、負債の大幅な変動がマクロ経済に与える影響は小さい。

Repos, Fire Sales, and Bankruptcy Policy
by Gaetano Antinolfi, Francesca Carapella, Charles Kahn, Antoine Martin, David Mills & Ed Nosal
現在のアメリカの破産法においては、レポ取引(Repo)において、借り手が破産した場合、貸し手は担保としてとってた金融差資産(国債など)を売ることができることとなっている。このことによって、たくさんのレポ取引を行っている大きな金融機関が破産した場合、担保に使われていた金融資産がいっせいに投売り(fire sales)されることでその金融資産の価格が暴落し、金融危機を悪化させる効果をもつ。その一方、借り手が破産した場合に担保をすぐに売りに出せない場合、借り手が破産した場合の担保の価値が減少するので、レポ取引が現在ほど活発ではなくなるかもしれない。レポ取引の最適な規制方法を考えるに当たっては、大きな金融機関が破綻した場合の投売りの悪影響と、(平常時の)レポ取引の大きさの間のトレードオフが存在することを示した。
 
Labor Market Upheaval, Default Regulations, and Consumer Debt
by Kartik Athreya, Juan Sanchez, Xuan Tam & Eric Young
2005年の実施された破産法の改正(それによってクレジットカード破産がしづらくなった)とGreat Recessionがクレジットカード負債の動きにどのように影響を与えたかをモデルで分析した論文。 Great Recession、特に失業者が職を見つけられる確率の低下、によって破産件数は上昇したが、2005年の破産法改正は破産件数の増加をペースを押させるのに貢献したことがわかった。

Credit Crunches and Credit Allocation in a Model of Entrepreneurship
by Marco Bassetto, Marco Cagetti & Mariacristina De Nardi
企業家が始めは金融制約の元で融資を受けて小さい企業を起こし、企業が成長してゆくモデルにおいて、Great Recessionのような大きなショックが生産活動に与える影響を分析した論文。企業家の資産が景気後退によって縮小した場合、新たに起業される企業の数は減少し、かつ、企業家が借りられる金額の制約がきつくなるので、それらの企業が成長するのに時間がかかる。よって、このようなモデルにおいては、経済に加わったショックがかなり長い間経済に負の影響を与え続ける。

Aggregate Unemployment and Household Unsecured Debt
by Zachary Bethune, Guillaume Rocheteau & Peter Rupert
 労働市場と金融市場の両方に摩擦(両方ともサーチモデル)を組み込んで、両者がどのように関連しているかを分析した論文。労働市場と金融市場の間には補完性が存在し、モデルでは失業率と借入限度額の間に正の相関が生じることを示した。以下のようなメカニズムによる。借入限度額が小さいと、モノを買おうという消費者の数が減少する。よって、企業の利益が減少し、企業は雇用者数を少なくする。失業率が上がると返済できないリスクが高まるので消費者は借りられる金額が減少する。

Anatomy of a Credit Crunch: From Capital to Labor Markets
by Francisco J. Buera, Roberto Fattal-Jaef & Yongseok Shin
金融危機がいつも失業率の大幅で継続的な上昇をともなうのはなぜかを分析した論文。2007-2008年のような景気後退が担保制約が急にきつくなったことで生み出されたとする(同じ担保で借りられる金額が減少した)とすると、生産性は高いが借り入れ制約に引っかかることで最適な生産サイズに拡大できない企業が多くなるので経済全体の生産量が減少する。結果として失業率が上昇することとなる。マイクロデータによると、クレジットクランチは、小さい、あるいは若い企業の雇用の成長率により大きな負の影響を与えることがわかった。このことはモデルで強調されるメカニズムと整合的である。

Tightening Financial Frictions on Households, Recessions, and Price Reallocations
by Zhen Huo & Jose-Victor Rios-Rull
借り入れ制約が急激にきつくなることで大きな景気後退が生み出されるメカニズムを分析した論文。借り入れ制約がきつくなると借り入れ制約に引っかかっている消費者の消費が減少し、彼らによって消費されなかった財・サービスが残ってしまう(消費者が消費する財・サービスをサーチすると言う仮定が効いている)ことで、消費される生産量が減少する。借り入れ制約にひっかかるのはより資産の少ない家計であり、借り入れ制約がきつくなると消費が資産の少ない家計から資産の多い家計にシフトする。資産の多い家計はサーチをあまり積極的に行わないので、消費されずに残る財・サービスがさらに増加する。これらの効果は価格が伸縮的でない場合により強くなることも示される。

Financial Business Cycles
by Matteo Iacovielo
住宅ローンのデフォルトがGreat RecessionにおけるGDPの減少のどの位を説明できるかをDSGEモデルを推定することで計測した論文。多くの住宅ローンがデフォルトされると、住宅ローンを貸し出していた銀行は資産を失う。もし銀行が最低限守らなければならない自己資本比率ぎりぎりで運用されていた場合、銀行は自己資本比率をキープするために貸し出しを減少させ、クレジットクランチを生み出し、負のスパイラルを生み出してしまう。推定されたDSGEモデルによると、このチャンネルはGreat RecessionにおけるGDPの減少の約2/3を説明できることがわかった。

Nick Bloom on Uncertainty and Macro

不確実性(Uncertainty、BloomはKnightian UncertaintyとRiskをここでは厳密に区別しないといっている)が変化することでマクロ経済に与える影響を分析して一躍有名になったStanfordのNick BloomがSED(Society of Economic Dynamics)の年次総会(今年はトロント大学で開催された)で、不確実性に関する研究の現状についてレクチャーをした。そのときのスライドはここにある。このレクチャーの内容を簡単にまとめておく。

 不確実性がマクロ経済に与える影響に関する研究が再び脚光を浴びるようになったのはなぜか。Bloomは5つの理由を挙げている。
  1. 大不況(Great Recession)は、不確実性の大幅な上昇と同時に起こった。どちらがどちらを引き起こしたかについての最終的な結論はまだ出ていないものの、不確実性の急激な上昇が不況を生み出したと議論する人も多い。
  2. 大平穏期(Great Moderation)が終わって、一般的に景気循環についての研究が再び脚光を浴びるようになった。
  3. コンピューターのスピードが上がることで、不確実性が意味を持つ、非線形性を持つモデルを解くことが可能になった。
  4. 不確実性の変化を測るために使うことのできるデータ(高頻度の取引に関するデータ、サーベイデータ、新聞記事のデータベースややgoogleなどに蓄えられたデータ)が充実してきた。
  5. Krugmanは不確実性はあまり重要でないといっている(最近よくあるKrugmanがらみのジョークである)。
この後、Bloomは理論、データ、因果関係の判別についていくつかコメントをしている。まずは理論から。モデルに非線形がなかったら、不確実性が大きかろうが小さかろうが、期待値は一定なので、非線形性がなければ不確実性に意味はない。では、どのような種類の非線形性が考えられるか?Bloomが研究しているのは、いわゆるリアルオプション理論である。投資額や従業員の数を調整するときに調整コスト(non-convex cost)が必要な場合、不確実性が拡大することで、「様子見」をする企業の数が増え、雇用や投資が停滞する可能性があるというものだ。

 では、次に、データについてみていく。利用できるデータによると、不確実性には次のような「定型化された事実(stylized facts)」が存在する。
  1.  マクロレベルの不確実性はcountercyclical(不況期に高くなる)である。以下に、S&P 500の変動の大きさ(volatility)を示す。
     
    影のかかった部分が不況の時期である。不況期に株式の変動が大きくなることが見て取れる。政策に関する不確実性(policy uncertainty)も景気後退期に高まりがちである。また、不況期には景気予測に関する意見の不一致を示す指標(アナリストの景気予測がどの位ばらついているかを見ることで測ることができる)も上昇しがちである。
  2.  ミクロレベルの不確実性もcountercyclicalである。このことは、産業別に見ても、個々の企業レベルで見ても、個々の企業が保有するプラントレベルでも、個々の商品価格のばらつき具合を見ても、当てはまる。
  3.  個々の企業が直面する3次より上のモーメントはacyclical(景気と連動して変動しない)に見える。このことは、不確実性の研究においては、平均(mean)と分散(variance)だけが刻々と変わるという風に考えればよいということを示している。しかし、その一方、個人の所得のデータを見ると、最近の研究では、景気後退時に上昇するのは分散(2次のモーメント)ではなくて歪度(skewness、3次のモーメント)であることが示されており、企業側のデータの特性との齟齬が存在している。
  4. 不確実性は発展途上国の方が高い。そもそも、途上国のGDPは、先進国に比べて50%振れが大きい。
ここまでは、不確実性の上昇が景気後退を引き起こすのか、それとも逆なのかについての議論を避けてきた。Bloomのこれまでの研究では不確実性の上昇が景気後退を生み出すことを理論的に示したが、逆の因果関係(reverse causality)が正しいと考える理由も存在する。例えば以下のような理論が提案されている。
  1. Krugmanが提唱するのは、不況期には政府は新しい政策を試しがちだという理論である。
  2. 好況期には企業の活動が活発になることで、情報がより蓄積され、不確実性も下落するが、不況期には逆に、企業の活動が不活発になることで、情報の生産速度が低下し、不確実性が上昇するという理論も存在する。元になっているのはVan Nieuwerburgh and Veldkamp (2006)のペーパーである。
  3. Bachmann and Moscarini (2011)は、企業は不況期には失敗のコストが低くなるので、様々な実験的な活動を行い、そのことが不確実性を上昇させるという理論を提唱している。
  4. Orlik and Veldkamp (2014)は不況期は、将来を見通すのが難しくなるので、不確実性が高まるという理論を提唱している。
 Bloomは、どちらの因果関係も理論的にはありうる、データはどちらの因果関係のほうが重要かについて明確な答えを出すことができていない、という評価を下している。時系列データで不確実性に関する指標と実際の生産活動に関するデータのどちらが先に動くかを見ると、不確実性に関するデータのほうが先に動くのが一般的であるが、多くのデータはforward looking(将来に関する情報を含んでいる)ので、どちらが先に動くかは決定的な理由とはならない。このような問題を克服するために最近行われている研究として以下のものが紹介されている。
  1.  Bloom (2009)は完全に外生的なショックを使って因果関係を導き出そうとしている。
  2. 企業レベルのデータを使った分析も進められている。
最後に、現在進行中の研究として、300の企業に、この先1年の売り上げの予想の分布を定期的に質問し、データセットを作るという試みを紹介している。

学会で行われるレクチャーというのは、自分が今やっているペーパーの紹介になってしまって、がっかりすることが多いが、このレクチャーは不確実性に関する研究の現在までと最前線の状況についてわかりやすく教えてくれる、とてもよいものだった。

Bringing Marketing to Macro

通常のマクロモデルでは、消費者は欲しいものがすぐに、かつコストなしに見つかるように仮定されている。硬い言い方をすると、財の市場に摩擦がない。そのこと自体は他のより重要と思われる要素に集中するための簡略化であって「マクロモデルに問題がある」ということでは決してない。しかし、欲しいものがすぐに見つからないような状況にするとマクロモデルの挙動がどのように変わってくるか、あるいは、(摩擦のない)標準的なマクロモデルで再現できないデータの特性(「パズル」と呼ばれる)が摩擦を入れることで再現できるようになるか、を考えてみるのは重要なことである。

このような財市場の摩擦が重要かもしれない根拠として、企業はかなりのリソースをマーケティングあるいはセールスに割いているということがある。消費者がすべての商品についてすぐにかつコストもなく知ることができればそもそもマーケティングをする必要もないし、セールスのために人を雇う必要もない。しかし、広義のマーケティング用の支出はGDPの8%に達するという推計もある。狭義のマーケティングである宣伝のための支出はGDPの2-3%に達する。これらの数字は、財市場の摩擦がマクロモデルの挙動に重要な影響を与えるかもしれないということを示唆している。

BUのFrancois GourioとLeena Rudankoは一連の論文で、財市場の摩擦と、その結果としてのマーケティング活動をマクロモデルに導入することでモデルの挙動がどのように変わってくるか、財市場の摩擦を導入することがシンプルなマクロモデルにおけるパズルの解決に役立つか、を分析した。今回は、彼らの論文の内容を簡単に紹介する。

 まずはConsumer Capital (REStud forthcoming)というペーパーから。彼らのモデルでは、生産性だけでなく、どのくらい顧客(カスタマーベース)を持っているかという側面で異なるたくさんの企業が存在する。生産に必要な原料のコストが各企業で同じ場合、生産性が高い企業は生産性の低い企業に比べてより多くのものを作って売ることができるが、どの企業もそれぞれの企業が持つカスタマーベースにしか売ることができない。そして、カスタマーベースを広げるためにはマーケティング(彼らのモデルではマーケティングとセールスは区別されていないので、あわせてマーケティングと呼ぶ)に人を割く必要がある。カスタマーベースのような概念のないシンプルなモデルでは、企業の生産性が向上したときには、その企業は投資をすぐに増やして資本を蓄積し、生産を増加させるのだが、彼らのモデルの場合にはすぐに資本を増やしても売る相手がいないと売り上げが伸びないので、投資はすぐには伸びず、カスタマーベースの拡大に伴ってゆっくり伸びていくことになる。このような投資のゆっくりとした反応はデータと整合的であり、しばしば投資のconvex cost(投資をすればするほど投資のコストが高まってゆくので企業は一気に投資を増やしたりはしない)としてモデル化されるが、彼らのモデルは、ある意味投資のconvex costのミクロ的基礎(microfoundation)として捉えることもできる。

また、彼らのモデルおいては、カスタマーベースを拡大するために、新しい顧客に対しては最初の期間だけは割引をオファーすることができる。いわゆる携帯電話等で新規の顧客に期間限定の割引価格をオファーしたり携帯の端末を無料(あるいは割引価格)で提供するするようなものである。カスタマーベースを手っ取り早く拡大したい場合、企業は、新しい顧客により大きな割引をオファーするか、マーケティング活動のための人を増やすことができる。

このようなモデルでは、ある企業の生産性が上昇した場合も、その企業はすぐに売り上げを拡大することができない。カスタマーベースを広げるのに時間がかかるからである。そのような企業はまずはマーケティングにリソースを割いて、カスタマーベースを広げてから、投資によって生産規模を拡大し、売り上げ及び利益を伸ばすのである。また、顧客は一旦ある企業の顧客となると、その企業にロックインされる(すぐには他の企業には移れない)ので、既存の顧客に対しては企業は生産コストより高い価格で物を売ることができる(正のマークアップ)。

彼らのモデルでは、カスタマーロイヤルティ、マーケティングコスト、新規顧客に対する割引、既存顧客に対するマークアップ等、通常のマクロモデルでは出てこない面白い要素が満載であることがわかると思う。このペーパーでは、著者らはこのモデルのインプリケーションを、アメリカの企業レベルのマイクロデータ(Compustat)と整合的か検証し、モデルのインプリケーションの多くがマイクロデータと整合的であると示した。彼らがデータと比較したインプリケーションは以下の3つである。

1.「摩擦が深刻な企業の方が利益率(資本に対する比率)、トービンのq、売り上げの資本比率、マークアップ(販売価格の原価に対する比率)が高い。」

まず、彼らは、摩擦の程度を示す指標として、セールス関連支出を使った。つまり、「摩擦が深刻な」企業というのは「セールス関連支出の高い」企業のことをさす。彼らのモデルによると、利益率、トービンのq、売り上げ資本比率、マークアップはセールス関連支出が高い企業のほうが高くなるはずである。このことは、Compustatにおける様々な企業の特徴と整合的であった。利益率やマークアップが高いのは、一旦顧客を囲い込むと、企業は高い価格で物を売ることができるからである。摩擦が深刻であればあるほど顧客の囲い込みの程度も激しくなるので、利益率やマークアップはさらに高くなる。売り上げの資本比率についても同様である。トービンのqというのは、企業の市場価値をその企業が保有する資本の価値で割ったものである。まぁ、あいまいに言えば、企業の価値と考えればよい。摩擦が深刻な企業では、一旦囲い込んだカスタマーベースの価値が高い。その一方、カスタマーベースの価値は資本価値には反映されないが、企業の市場価値には反映される。よって、トービンのqは摩擦が深刻な企業においてより高くなる。

2.「摩擦が深刻な企業ほど、ショックに対する投資や売り上げの反応は鈍くなる。また、投資や売り上げは、トービンのqやセールス関連支出に比べてラグを伴って反応するが、そのラグは摩擦が深刻であればあるほど大きくなる。」

財市場の摩擦が深刻であれば、たとえば企業の生産性が上昇しても、カスタマーベースを広げるのに時間とコストがかかるので、投資や売り上げの増加は小さくなり、かつラグは大きくなることは、容易に想像ができるであろう。著者らはこのこともCompustatにおける様々な産業の特徴と整合的であることを発見した。

3.「企業の投資額のうちトービンのqで説明できる分は、摩擦が深刻であればあるほど小さくなる。」

摩擦のないシンプルなモデルでは、企業の投資額とトービンのqは同時に動くことが知られている。生産性が上がって企業の価値が上がっているときには、企業は投資を拡大しているはずだからである。しかし、データでは、そのような関係は強くは見られない。このことはパズルとして知られていた。彼らのモデルでは、トービンのqが上昇しても、カスタマーベースを拡大してから生産を増やさなければならないので、投資の反応はゆっくりとしたものになる。よって、投資とトービンのqの関係は弱くなる。著者らは、このようなモデルの特徴もCompustatと整合的であることを発見した。

さらに、最近NBER Working Paperとして出版された論文(Can Intangible Capital Explain Cyclical Movements in the Labor Wedge?)では、財市場の摩擦をスタンダードなRBCモデルに導入することで、モデルの挙動がどのように変わってくるかを分析した。上で取り上げたモデルとは異なり、このペーパーのモデルでは代表的企業一社のみが存在するが、企業が売り上げを伸ばすためにはまずはカスタマーベースを拡大しなければならないという点は上のモデルと変わりはない。彼らは財市場の摩擦を導入したモデルは、以下の点でシンプルなRBCモデルと異なることを発見した。
  1.  データでは、セールス関連の雇用はprocyclical(=GDPが上がるときにはセールス関連の雇用も上がりがちであることを指す。GDPとの相関係数0.27)でGDPの約2倍の大きさで変動する。著者らのモデルでは、セールス関連の雇用のprocyclicality(相関係数0.34)も大きな変動も再現された(彼らのモデルにおけるセールス関連の雇用の変動は大きすぎるが)。
  2. 彼らのモデルでは、ショックに対するGDPの反応はコブ型(hump-shape)であり、通常のRBCモデル(GDPはすぐに上昇して次第に低下するので、コブ型にはならない)よりデータと整合的である。
  3. (あまり詳しくは立ち入らないが)Labor wedge(消費と余暇の間のMRS(限界代替率)をMPL(労働生産性)で割ったもの)は、摩擦のないシンプルなRBCモデルでは消費税率と賃金収入に対する税率の和であり、景気循環に応じてほとんど動かず無相関なはずであるが(Shimer (2009))、データを見ると、labor wedgeの変動はGDPの変動の1.5倍くらいであり、countercyclical(=GDPが上がるときにはセールス関連の雇用も下がりがちであることを指す。GDPとの相関係数は-0.89)である。彼らのモデルでは、データで見られるlabor wedgeの動きを再現することに成功した。
シンプルなマクロのモデルにある意味シンプルな摩擦を加えることで、シンプルなモデルでは分析することのできない様々なことを分析できるようになる、それにモデル自体は依然シンプルなので拡張の余地がかなりあるという意味で、いかにもtop jounralに載りそうなとてもいいペーパーだと思う。

Inefficient Size-Dependent Policies

今回も、企業に異質性のあるモデルで個々の企業に異なる政策を実施することによる生産性の悪化というトピックの続きである。具体的にはGuner, Ventura and Xu (RED2008)をカバーする。もうこれで最後にするが、前回カバーしたRestuccia and Rogerson (RED2008)と並んでこの分野での必読文献であることと、日本の話が出ているからだ。

このペーパーのモチベーションになっているのは、発展途上国においても先進国においても、大企業を冷遇する、あるいは中小企業を優遇する政策が広く行われていることである。European Commissionによると、EUにおける平均的な企業(正確にはplantだがまぁ気にしないでよい)はアメリカの企業に比べて従業員数が23%少なく、日本の場合は40%も開きがある。それぞれの国で利用可能な技術が同じであれば、企業のサイズも同じになるはずであるが、そうはなっていないのである。その理由はいろいろあるであろうが、ここでは、その主たる理由として、欧州や日本では大企業を冷遇あるいは中小企業を優遇する政策がアメリカに比べてより積極的に行われていることを挙げている。

中小企業優遇策の典型例として挙げられているのが、1973年以来実施されてきた(2000年に規制の弱い新大店法に取って代わられた)いわゆる大店法である。彼らによると、大店法のもとでは、500平方メートル以上の敷地を持つ小売店舗にはさまざまな規制が加えられていた(1500平方メートル(大都市圏では3000平方メートル)以上の敷地を持つ小売店舗の場合規制は更に厳しくなる)。例えば、新たな店舗をオープンするためには「関係者(新たな小売店のオープンによって影響を受ける既存の小売店も含まれる)」の合意を得る必要があり、多くの場合オープン自体が妨げられてきた。著者らによると、このような大企業を冷遇する政策は、フランス、イタリア、等の他の国でも活発に行われてきた。逆に、中小企業、特にスタートアップ企業を優遇する政策は多くの国で積極的に採用されている。このような政策の効果を、企業に異質性がある、特に異なるサイズの企業が存在するモデルを使って分析しようというのがこのペーパーの目的である。

モデルは最近見てきたものと非常に似ている。各企業は生産性が異なり、生産性に応じて、資本と労働を競争的市場から調達して生産を行う。ここ最近扱ったペーパーのような借り入れ制約は存在しないので、当然のことながら生産性の高い企業の方が大きくなる(多くの資本と労働を使って生産を行う)。生産性が低すぎる企業はマーケットから退出し、参入コストを支払ってもよいと思うくらい生産性の高いスタートアップにとって代わられる。前と同じように、静学的均衡のみ見ているので、各企業は生産性がショックを受けて変化するのに合わせてサイズが大きくなったり小さくなったり、あるいは参入したり退出したりするが、経済全体の状態(GDP、総消費、総雇用)は変わらない。

企業の大きさに応じて異なる政策を実施したときに経済全体にどのような影響を与えるかを分析するのが目的なので、最低限、モデルにおける企業の大きさの分布が実際の経済と似ていなければモデルを使ったシミュレーションは信用できないであろう。この点をクリアするために、著者らは、アメリカをこのような政策がない状態と考え、企業のサイズに依存した政策がない状態でモデルが生み出す企業のサイズの分布がアメリカにおける企業のサイズの分布に近くなるようにモデルのパラメータを調整している(カリブレーション)。

では、このような経済において、企業のサイズに依存した政策がどのような効果を持つかを分析していくのだが、日本の大店法やヨーロッパで実施されている政策を厳密にモデル化するのは難しいので、もっとシンプルでありながら、日本や欧州で実施されている政策のエッセンスを捉えた政策をモデルの中では実施してみることとする。より正確には、ある一定以上の資本Kを使う企業には、資本の利用コストに一定税率の税Tがかけられると仮定する。Kのレベルは、政策がない状態のモデルにおける企業の平均サイズが選ばれ、T(34%)は企業の平均サイズが政策によって20%小さくなるよう(20%というのはアメリカと欧州における平均企業サイズの差に近い)に選ばれている。モデルによると、このような政策を実施することによって企業の数が24%も増加し、GDPは8%減少する。毎年の消費量がどれくらい変化するかという風に測られた「幸福度(welfare)」の変化は1.5%の減少である。

どうしてこのような結果が起こるのか。大きい企業に税がかけられることによって、 大きい企業のサイズが小さくなる。大きい企業が使わなくなった資本や労働の一部は、生産性は低いのでサイズは比較的小さいけれども税の対象とはならない小さい企業の使われ、それらの企業の生産が拡大する。大きな企業が資本や労働を使わなくなることで、需要の低下を反映してそれらの価格が低下するので、これまでは生産をやめていた生産性の低い企業の一部が復活してしまう。生産性の高い大企業の生産が縮小すると同時に生産性の低い企業による生産量が増えるので、経済全体で見た生産性は低下することになるのである。

では、今度は、資本の利用ではなく、大企業による労働の利用に対して一定税率の税金がかけられるとしよう。上の政策と同じように、平均的な雇用のサイズを超える企業の賃金支払いに対して、一定の税率Tで税金がかけられるとし、T(14%)はこの政策が実施された場合に企業の平均的サイズが20%低下するように選ばれる。この政策の結果、企業の数は前と同じように24%増加するが、GDPは0.5%しか減少しない。幸福度の変化は0.4%の減少である。企業のサイズに依存する政策といっても、どのように企業に異質な影響を与えるかによって政策の効果はずいぶん異なることが見て取れると思う。

著者らは、多くの国で行われている、小さい企業に補助金を与える政策、の分析も行っている。彼らのモデルにはスタートアップを支援することによる利益が存在しないので、小さい企業を支援する政策も経済に悪影響を与えることになる。詳しい数字としては、GDPは0.1%しか減少しないものの、企業の数は24%増加し、幸福度に与える影響も大きい(1.8%の低下)。

最後に著者らはあるセクターに焦点を当てた政策も同じようなフレームワークを使って分析できると主張してペーパーを終えている。

最近は、ここ数回扱ってきた企業に異質性のあるモデルに、失業を加えたり、景気循環を加えたようなモデルが発展している。これらの分野は今現在発展中の分野である。気が向いたらそのようなペーパーも扱うかもしれない。

Heterogeneous Policy Distortions and TFP

大学院生のときに、マクロの先生が、「これまでは家計側の異質性に焦点を当てた研究が多かったがこれからは企業の異質性に焦点を当てた研究が盛んになるはずなので、そちらの方に注力するのを薦める」といっていた。そのときにはあまり真剣に考えなかったのだが、今考えてみると、その予言は正しかったと思う。とはいえ、大学院生のころは、そのころ流行っていた研究についていくのに精一杯で、その先を見越すだけの視点がなかったのは残念だ。

最近、これこれで、 企業の異質性に焦点を当てたペーパーを扱ったが、そのおおもとになっているペーパーはHopenhayn (ECO1992)とHopenhayn and Rogerson (JPE1993)である。今回軽く触れるのはHopenhayn and Rogersonのモデルをベースに、生産性が異なるたくさんの企業がいる経済で、ある企業を補助金で優遇して他の企業を税金によって罰するような政策を実施したときに、TFP(全企業の平均の生産性)やGDPがどのように影響を受けるかを分析したRestuccia and Rogerson (RED2008)である。最近扱ったBueraの一連の研究はこのモデルを簡略化する(企業の参入と退出を捨象した)一方で、企業の借り入れ制約を加えただけである。順番が逆になってしまったが、企業に異質性のあるモデルで政策の効果を分析するペーパーの基礎となっているペーパーなので簡単に紹介しておく。

モデルは最近扱ったモデルととても似ている。基本的には新古典派成長モデルなのだが、生産性の異なるたくさんの企業が存在しているとする。それぞれの企業は競争的価格で取引される資本と労働を投入して生産を行う。ただし、企業が存続し続けるためには毎期毎期ある一定のコストを支払わなければならない。生産性が低すぎて、そのコストに見合わない生産しかできない企業は生産をやめて市場から退出することになる。一方、市場にまだ参入していない企業もたくさんいて、ある一定のスタートアップコストを支払えば生産性がランダムに与えられて、生産を開始できる(最初に引いた生産性が低ければ生産を開始せずに退出する)。但し、あまりにたくさんの企業が参入すると、賃金等のコストが上昇してしまうので、参入する企業の数は内生的に制限される。このペーパーでは静学的均衡(steady-stateの訳はこれでいいのであろうか)のみを見ているので、退出する企業と参入する企業の数が一定で、生産している企業の数が変わらない状態のみを見ている。「静学的均衡」という言葉を使ったが、個々の企業レベルでは企業の生産量が変化したり企業が参入や退出をしたりしているので、経済全体で見た状態(生産している企業の数や総労働投入量、GDPなど)は一定であるが、その背後では個々の企業にいろいろなことが起こっていることに注意してほしい。ここがこれらの異質性のあるモデルの面白いところである。

では、このような経済があるときに、政府がそれぞれの企業にランダムに補助金を与えたり、税を課したりするとしよう。まったく同じ生産性の2つの企業A、Bがいれば、 AとB企業は同じ量を生産するのが効率的なはずだが、Aは税金を課され、一方Bには補助金を与えられるとするとAの生産量は減少し、Bの生産量は増えることになる。他におかしな要素がなければ、このような状態は、経済にとって非効率となる。例えば、半分の企業はランダムに(生産に対して)40%の税金がかかり、残り半分の企業には11%の補助金がかけられるとすると(11%という数字は経済全体の資本量が変わらないように選ばれている)、経済全体のTFPは8%低下し、(経済の総資本が変わらないように政策を選んでおり、経済全体の労働供給量は一定なので)、GDPも8%低下することがわかった。

では、生産性の低い企業に補助金を与えて、生産性の高い企業に(40%の)税金をかける政策を実施するとしよう。これがしばしば多くの政府が実施していると考えられる政策である。この場合、TFPとGDPは31%も減少することがわかった。では、政府は生産性の高い企業を助けるためにそういう企業に補助金を出し、生産性の低い企業に税金をかけるとしよう。それでも経済にとっては非効率になる。生産性が高い企業は政策の後押しがなくても最適なレベルまで生産を拡大しているはずなので、補助金を使ってそれ以上に生産をあげることは、無理をさせすぎている状態を生み出しているからである。例えば、生産性の高い10%の企業にのみ補助金を与え、残りの企業には40%の税金を課した場合、経済全体のTFPは5%低下することがわかった。

もし政府が補助金をどの企業にもあげなければ経済全体の資本蓄積量が低下するので、GDPは更に低下することになる。例えば、ランダムに半分の企業に40%の税金を課し、底利の半分には税金も補助金もつけないとすると、TFPは22%、GDPは35%も低下することになる。

このペーパーは、実際に各国で実施されている政策をモデル化しているわけではなく、いわばフレームワークを提供しているだけである。世界中で実施されている、企業レベルで影響を与えるさまざまな政策がマクロのレベルでどのような影響を与えているかを分析することは現在も行われている最先端の研究分野である。最近出た2013年1月号のREDはさまざまな具体的な例を分析したペーパーを集めた特集号であり、Restuccia and Rogersonが監修者となっている。Buera, Moll and Shinもペーパーを載せている。

個人的には、生産資源の分配を非効率にして平均的なTFPを引き下げる具体的な政策の分析を進める一方で、こういう政策がTFPの水準や成長率を高めるような理論・モデルにも興味がある。いわゆる「役に立つ産業政策」的な視点だ。ここで扱ったようなモデルは、政府は何もしないほうがよいという新古典派的なモデルなので、政策がTFPを引き下げるというのはすでに仮定されているようなものだ。インドのように一貫してTFPも経済成長率も低い国の政策を分析する際にはこれでいいかもしれないが、政府の行う政策は全て悪かというとそんなことはないはずで、そういうケースも分析できればなお面白いと思う。

Heterogeneous Firms and "Economic Miracles"

前回に続けて、BueraがShinと書いた最近のペーパー(”Financial Frictions and the Persitence of History: A Quantitative Exploration,” JPE forthcoming)にも触れてみることにする。モデルは前回のモデルと非常に似ている。生産性の異なる企業家がたくさんいる経済を考えてみよう。借り入れ制約があるせいで最適な生産水準を達成できない企業家がいると考える。今回のペーパーでは、同じようなモデルをつかって、いろいろな企業家がいる経済で金融摩擦(借り入れ制約)が経済成長にどのような影響を与えるかを分析している。

まずは、ペーパーのモチベーションとなる事実から見ていこう。著者らは、いわゆる「成長の奇跡(growth miracles)」と呼ばれるエピソードをいくつも取り出し、それらに共通する特徴を整理した。それらは以下の通りだ(ペーパーからグラフも転載しておく)。

1.大体のケースにおいて、経済成長は、大規模な改革ときっかけとして始まった。 彼らが分析した「成長の奇跡」には日本も含まれるので日本について彼らが書いていることをまとめると、日本では第2次大戦後(著者らは1949年が分岐点だと主張している)、補助金や価格統制を使った統制経済を自由化し、民間企業の効率的な運営に基づく経済に転換した。
2. 「成長の奇跡」とはいいつつも、経済成長は急激なものではなく、先進国にキャッチアップするには数十年の年月を要した。上のグラフでは、横軸は改革が始まった年からの年数(改革が始まった年が0)となっている。著者らのサンプルに含まれる国の平均が黒の太線、日本は赤の線だ。左上の労働者一人当たりのGDP(対US比)をみると、平均的な「奇跡」においては経済成長は少なくとも30年の間継続的に続いたことがわかる。
3.「成長の奇跡」における経済成長は、TFPの上昇で説明できる。左下のグラフがそれぞれの「奇跡」におけるTFPの動き(対US比)である。
4.投資のGDP比率は「成長の奇跡」の期間中、最初は上昇したがその後低下した。 このことは右上のグラフに示されている。と著者らは述べているものの、モデルでは低下するとはいえ、データも「低下した」というのはちょっと無理がある。データは、「安定化した」くらいが妥当であろう。
5.「成長の奇跡」の期間の大部分においては、金融セクターはあまり発展しないままだった。右下のグラフを見ると、「奇跡」の過程で民間の貸し出し額がGDPに占める比率はだんだん上昇していったものの、アメリカの水準(1990-2005年の平均)である1.75(黒の点線で示されている)には及んでいないことがわかる。この点も少し問題があると思う。アメリカにおいても、貸出額はだんだん増えていっているので、アメリカの最近の平均をみて「それより少ない」と述べるのはちょっと強引な気がする。

 国の成長を見るためのレンズとして最も一般的に用いられているのは新古典派成長理論であるが、なぜそれでは満足いかないのであろうか?著者らは、もし上に挙げたようなエピソードを資本蓄積として理解しようとするのは無理があると主張する。理由は次の通りである。その場合は、経済成長(キャッチアップ)はとても急激に起こるはずであり、上の2.と反する。もちろんTFPは一定であり、3.に反する。投資のGDP比率は経済成長とともに低下するはずであり、4。に反する。では、TFPの上昇が「奇跡」を生み出したとしたらどうだろう。その場合、上で挙げた事実と整合的になる。但し、TFPの上昇はなぜ起こったのかは新古典派成長理論では説明することができない。つまり、このペーパーは、TFPの上昇の背後にあるものをモデル化したものだといえる。そしてモデル化の鍵となるのが、上で挙げた1.の事実なのである。

では、モデルを簡単に見ていこう。経済の中にたくさんの人がいる。それぞれの人は企業家としての能力 が異なっている。企業家になって自分のビジネスを立ち上げればとても生産性の高い人もいれば、企業家になっても大して生産性の高くない人もいる。それぞれの人は、各年のはじめに、企業家になるか労働者となって企業家が起こした企業で働くかを選ぶことができる。容易に想像ができるだろうが、企業家としての能力が低い人は労働者に成ることを選び、企業家としての能力の高い人が企業家になることを選ぶ。企業家になった場合、労働と機械(資本)を使って生産をすることになる。機械は、自分で持っている自己資本と金融セクターからの融資を使って毎年調達しなければならない。ここで一つ問題が生じる。機械を調達するために金融セクターから借りられる金額は自分が持っている自己資本の一定割合までという制約がある(借り入れ制約)。前回と同じ記号を用いると、自己資本額をK、借入額をDとすると、DはdKより小さくなければならない(dは定数とする)。前回と同じ例を用いると、ある企業家のKが1億円で、たとえばd=0.35であればこの人は3500万円までしか借りられないのである。何でもっと借りられないか、ということを説明する理論はいろいろあるが、最もわかりやすいものは破産である。破産の恐れがあると、あまり身の丈を超えた金額は貸すことができないというものである。しかし、モデルの中においては、単にdはあらかじめ定められた数となっている。この場合、とても生産性は高いので大きな企業を運営したい人がいたとしても、その人の自己資本がとても少なければ、たくさんの機械を借りることができない。自己資本が極端に少ない人は、生産性が高くても企業家になることすらあきらめて労働者になってしまっているかもしれない。一方、生産性の高い人に貸すことのできなかったお金がどこに行くかというと、企業家としての生産性はあまり高くない(労働者になるほどは低くはない)けれどもたくさん自己資本を持っているのでたくさん借りることのできる企業家に行ってしまうのである。この状態は非効率だ。なぜなら、生産性の高い人にお金を貸すことができれば、経済全体の生産性は高まるからである。そういう意味で、この経済では、金融摩擦(financial friction、ここでは借り入れ制約)が経済全体の生産性、および生産量を下げてしまっている。

著者らは、更に、改革が始まる前の状態(日本では1949年以前)では政府が生産性の低い企業家に補助金を出して彼らの生産量を更に引き上げ、生産性が高い企業家に高い税金を課して生産性の高い企業の成長を阻んでいると仮定する。個人的には、あまりに大雑把過ぎるに思えるが、政府が資源配分をゆがめているときの影響を分析した多くのペーパーで用いられているので、まぁ、いいのであろう。このような状態では、生産性の低い(高い)企業の生産がより大きく(小さく)なってしまっている。

では、この状態から、日本で言えば1949年に、突然大規模な改革が起こり、上で説明したような補助金および税金が撤廃されたとしよう。この経済に何が起こるかを分析したのがこのペーパーの主要な実験である。彼らのモデルにおいては大規模な改革後は次のようなことが起こる。
  • 補助金を受け取っていた生産性の低い企業は補助金の撤廃に伴って、生産を縮小する。
  • 税金が撤廃された企業は生産を拡大する。税金が撤廃されたことで、これまでは企業家になることをあきらめていた労働者も企業家としての生産性が高ければ企業家になる。
  • 但し、生産性の高い企業家による生産の拡大は緩やかなものとなる。なぜなら、借り入れ制約によって、生産をすぐに拡大できないからだ。
  • 生産性が高い企業の生産が増加し、生産性の低い企業の生産が縮小するにつれ、経済全体で見た生産性(TFPとして測ることができる)は上昇してゆく。
  • 生産性の高い起業はより多く借りるために自己資本を増やさなければならない。よって、彼らの貯蓄率は高くなる。一方、生産性の低い企業は緩やかに貯蓄を減らしてゆく(消費の平準化)。よって、経済全体で見れば貯蓄率(閉鎖経済なので投資のGDP比に等しい)は上昇する。生産性の高い企業が十分自己資本を蓄積した後は、経済全体の貯蓄率は低下する。
  • dが動かなければ、貸出額はあまり大幅には増加しない。
これらの事実は最初にモチベーションとしてあげた2-5と整合的である。下のグラフは、モデルが生み出したダイナミクス(黒の太線)とデータ(グレーの太線、上のグラフにおける「奇跡」の平均)を比べたものである。大まかには整合的であることが見て取れるであろう。著者らが強調する面白い点は、借り入れ制約の役割である。この実験においては、借り入れ制約は特に変わらない(経済に加わるショックは補助金と税金の撤廃だけである)が、借り入れ制約の存在によって、生産性の低い企業から高い企業へのリソースの移転のスピードが遅くなるという点である。
 最後に、著者らは、このモデルと整合的な事実として、以下の3つを挙げている。
  1. 中国と台湾においては、改革後、民間セクターが国全体の生産に占める比率が一貫して上昇していった。 民間セクターを「生産性の高い企業家」のようなものとして捕らえればこの事実はモデルと整合的である。
  2. 「奇跡」が起こった多くの国において、改革の直後には、産業間を移動する労働者の数が上昇し、その数字はだんだん低下していった。産業間を移動する労働者の数が、生産性の低い企業から高い企業への資源移転の程度を表していると考えれば、この事実はモデルと整合的である。
  3. 日本、シンガポール、韓国においては、平均的な企業の大きさが上昇した。モデルの中では、補助金や税金の撤廃されると、生産性の高い企業に生産がだんだん集中していくので、この事実もモデルのダイナミクスと整合的である。

モデル自体は、こういうモデルが好きな学校(Rochester、Minnesota、Penn、NYU...)でマクロを勉強している2年生であれば解ける程度の簡単なモデルであるが、こういうモデルがまだ使われていない成長論のような分野でうまく使えばトップジャーナルに行くというお手本のようなペーパーだと思う。

Heterogeneous Firms and Credit Crunch

遅ればせながらFinancial shockがマクロ経済にどのような影響を与えているかについて、ここ数年でたくさん書かれた論文をちょっとづつ読んでいる。そのうちの一つ、Buera and Mollによって書かれた「Aggregate Implications of a Credit Crunch」についてちょっとメモしてみようと思う。Bueraは、生産性等が異なる企業が存在する経済にFinancial shockが起こったときに、それぞれの企業がどのように影響を受けるか、そしてその結果マクロ経済全体でどのような影響が生じるか、というトピックで論文を書きまくっている出世株だ。

まずはちょっとしたバックグラウンドから入ってみる。ちょっと前(と言っていいのかわからないけれども)、Chari、Kehoe、McGrattan(CKM)が提案したBusiness Cycle Accounting(BCA)というのが流行っていた。TFPショックをモデル全体を記述することなく計算できたように、他のタイプのショックをモデルなしで計算しようというアプローチである。TFPはもちろんそのままで使いやすいが、多くの人はTFPショックを額面どおりに信じているわけではなく、どのようなメカニズムがTFPショックのようなものを生み出しているかという研究がずっとなされてきた。

BCAアプローチというのは、TFPと同じように、何かもっとmicro-foundedなメカニズムから生み出される別のタイプの「ショック」を計算し、それはそれでTFPショックのように使うと同時に、その背後にあるメカニズムの研究も進めようと問いうアプローチだと理解している。BCAアプローチでは、TFPショックのようなものをウェッジと呼んでいるが、今回の論文で使われるウェッジは、効率性ウェッジ(TFPのように、生産要素投入量が一定のときに生産量を変化させるウェッジである)、労働ウェッジ(労働生産性と労働の不効用に差を生じさせるもの、労働所得に関する税(あるいは補助金)のように考えればよい)、投資ウェッジ(消費財を投資財に変える効率性を変化させるもの、投資財への税(あるいは補助金)のように考えればよい)である。

では、なぜBCAアプローチの話から始めたか?いくらBCAアプローチがモデルにあまり依存せずにウェッジを計算しているとはいえ、完全にモデルから自由であることはありえない。特に重要な仮定の一つは、代表的個人(つまり消費者は1人)と代表的企業(つまり企業は1つ)を仮定していることである。では、たくさんの異なる企業がいて、それぞれの企業が何かのショックを受けたとする。その結果それぞれの企業が(おそらくは異なる)影響を受け、マクロ経済全体への影響はそれぞれの企業が受けた影響を集計することで計算することができる。では、その代わりに、最初からこのような経済を代表的企業の存在するモデルで把握してみたとする。この場合、個々の企業にショックが与えられた結果生じたマクロ経済への影響を、代表的企業しかないモデルで把握できるだろうか?という疑問が生じる。この論文はそのような問いに対して答えることを目的にしている。

 ではちょっとモデルを説明してみよう。このペーパーで扱うのは前にも扱った「Financial shock」である。ある企業がKだけ資本を持っているとすると、企業が借りられる金額DはdKまでとする制約である。例えば1億円持っている企業はd=0.5であれば5000万円まで借りられるし、d=0.2であれば2000万円までしか借りられない。Financial shockというのはこのdが(明示的にモデル化されない)何らかの理由で動くというものである。この論文におけるCredit Crunchというのはdが急に下がることである。では、生産性(TFP)や資本の異なる企業がいる経済でdが急に下がったとしよう。おそらくは資本が比較的少ない企業はdKめいっぱいまで借りているであろうから、 それらが借りられる金額は下がることになる。では、それらの企業が借りれなくなってしまったお金はどうなるか?彼らのモデルでは、生産性が低いのでdが高かった状態では借りることができなかった企業が借りることになる。つまり、dが下がることによってお金が生産性の高い企業から低い企業に移ってしまうのである。では、このようなミクロレベルで起こっていることを無視して、代表的企業の存在するモデルでこの経済を理解しようとするとどうなるか?リソースが生産性の高い企業から低い企業に移ってしまえば、経済全体で見た(代表的企業の存在するモデルから見た)生産性は低下することになることが容易にわかると思う。つまり、このモデルでは、Financial shockはTFPの低下として理解されるのである。異質性のあるモデルでよく起こるクレンジング効果(不況時には生産性の低い企業が生産を縮小したり、生産性の低い労働者から職を失うことで、平均的な「生産性」は高まる)と逆のことが起こっていることも面白い。

なぜこの結果が面白いか?CKMはBCAを使って、金融セクターがマクロ経済に影響を与える代表的なモデルであるBGG(Bernanke, Gertler and Gilchrist)などのモデルでは金融セクター経由がマクロ経済に影響を与える時には投資ウェッジの上昇として現れる一方、データによると、投資ウェッジはあまり動かないので、BGGのようなモデルをもとに景気変動を考えるのはあまり有効ではないと主張した。それに対して、このペーパーの結果は、もしFinancial shockがBCAのもとではTFPショックのように見えるのであれば、CKMの議論は金融セクターが重要でないという結論には結びつかないことを示しているのである(著者らは、同じような議論は別のモデルでもすでになされていること、および、投資ウェッジがあまり動かないというCKMの証拠も頑健なものではないことが示されていることにも言及している)。

次に、著者らは、最初のモデルと同じく、Financial shockが異なる企業の借り入れ可能額に影響を与える経済を維持しつつ、企業の生産性が異なる代わりに、投資の生産性あるいは雇用を増やす際の生産性が異なるケースも分析した。まずは、企業の投資の生産性が異なるケースでは、Financial shockはBCAフレームワークのもとでは投資ウェッジの動きとして現れることを示した。最後に、企業が雇用を増やす際の生産性が異なるケースでは、Financial shockは労働ウェッジの動きとして把握できることを示した。これらから何が言えるか?Financial shockが景気の変動を生み出しているときでも、モデルのセットアップの仕方によって、BCAのもとでどのウェッジの動きとして理解できるかはぜんぜん変わってくるというものである。言い方を変えれば、BCAアプローチのもとでどのウェッジが重要そうかということがわかったとしても、その背後にあるメカニズムについては結局あまりわからないことを示した、とも言えるであろう。

最後に、2008年からのGreat Recessionにおけるさまざまなデータの動きから、このペーパーで分析された3つのモデルのどれが優れているかを識別することは可能か、という考察を行っているが、1つの金融危機だけしかサンプルがなくて、マクロレベルのデータしかない状況では、モデルの識別は難しいとの印象を受ける。例えば、3つのモデルのすべてにおいて、Financial shockによって総債務残高のGDP比が同じように落ち込むことが示されている。

著者らも書いているが、このペーパーの問題意識はこのポストで扱ったペーパーの問題意識と近い。企業あるいは消費者に異質性のあるモデルで起こっていることを、代表的企業と代表的個人からなる一般的なDSGEモデルでうまく把握できるかというものである。答えは(そのほかのほぼあらゆる経済問題に関する答えと同様に)もちろん「時と場合による」のであるが、これらのペーパーは一般的なDSGEモデルで把握できない、重要なメカニズムを示しているという意味で面白いと思う。

ちょっと書き方が硬すぎたかもしれないがこの辺で。

Small, Large, or Young?

今回は、Haltiwanger、Jarmin、MirandaによるNBER Working Paper(“Who Creates Jobs? Small vs. Large vs. Young”)を取り上げる。今回はDavisと一緒ではないが、このペーパーもDavis-Haltiwangerによるjob creation and job destruction(雇用の変化を分析する際に、ネットでの変化だけを見るのではなくて、各企業がどれだけ増やしたり減らしたりしたかに分けて分析するアプローチ)に関する一連の研究の流れを汲んだものである。このブログではほぼ大体自分の専門から外れたことを書いているが、今回は特に外れ方が激しいので、間違って理解しているところがあったら指摘してもらえるとうれしい。

巷でよく言われている「中小企業が雇用の大部分を生み出している」という認識は正しいか、をなるべく丁寧に検証してみようというのがこのペーパーの趣旨である(正確には「小企業」だが、日本では「中小企業」という言葉がよく使われている気がするので「中小企業」という用語を用いる)。この認識は、政策決定者の間でもしばしば垣間見られる。彼らによると、「中小企業が新規雇用の2/3かそれ以上を生み出している」と言う数字が政策決定者によってしばしば使われている。また、中小企業支援という政策を打ち出す場合にこのフレーズがしばしば使われたりしている(中小企業を政策的に支援すれば雇用が増えるのだ、というような感じで)。では、何でこの認識が正しくない可能性があるのか?その理由として、アカデミアで共有されているGibrat's Lawという法則がある。この法則は、「企業の成長率は企業のサイズと無関係だ」というものである。では、彼らは、どちらが正しいという結論に達したか、簡単に見ていこう。以下では彼らがデータから見つけたことを箇条書きに書いていく。

1. 産業と年だけをコントロールして(産業と年による効果を取り除いた上で)(雇用で測った)企業の成長率と(従業員数で測った)企業の大きさの関係を調べると、負の相関があることがわかった。つまり、小さい企業ほど高い成長率を示しがちだということである。

2. 但し、この結果は、「平均への回帰」によって膨らまされている。わかりやすい例を挙げると、ある企業の従業員数が100人、50人、100人、50人、と毎年変化している場合、ひとつの企業が大きくなったり小さくなったりしているだけで、平均的にはこの企業の雇用者数はかわらないのに、企業の大きさと成長率の相関を取ると負の相関が生まれてしまう。このような効果を取り除くと(簡単に言えば企業の大きさの変わりに企業の「平均的な」大きさを使って相関関係を調べている)、企業の成長率と企業の大きさの間の負の相関は弱まることがわかった。

3. 今度は、産業と年に加えて、企業の年齢(創業から何年が経過しているか)をコントロールした上で、企業の成長率と大きさの関係を調べたところ、相関関係はなくなった。つまり、1.で小さい企業ほど高い成長率を示しがちのように見えたのは、若い企業は大体小さくて、若い企業が高い成長率を示しがちだからである。この結果と関連する研究として、Eric Hurstは、最近のWorking Paper(“Non Pecuniary Benefits of Small Business Ownership”)で、大部分の小企業は成長しないし成長したくもない、イノベートもしないししたくもないものなのだということをデータで示している。つまり、大多数の中小企業は企業家と呼ぶような行動パターンを示していないのである。言い方を変えれば、大部分の中小企業は近所のラーメン屋のようなもんであり、Googleではないのである。Hurstはこの結果を元に、中小企業を企業家のようにモデル化して分析すると間違った分析結果が導き出されてしまう可能性があると指摘している。

ひとつ数字を挙げてみよう。2005年にはアメリカの民間セクターは250万人の雇用増加(net job creation)を生み出したが、その内訳を企業の年齢別に見ると、年齢0歳の企業(新規企業)は合計で350万人雇用を増加させ、年齢26歳以上の企業は40万人の雇用増加を生み出した一方、それ以外の年齢の企業は合計で140万人雇用を減らしているのである。この数字を企業のサイズで見ると、どのサイズの企業も雇用を増やしているが、それは主に、小さいサイズの企業の雇用増は新規企業によって生み出され、大きいサイズの企業の雇用増は高齢である企業によって生み出されているからである。

ちなみに、この結果は特に目新しいものではないと思うかもしれないが、この研究の貢献は、企業の年齢を正確に把握できるデータセットを構築し、分析したことにある。細かい話なので詳細までは立ち入らないが、これまで使われてきた多くのデータセットでは、たとえばトヨタが新しい工場(一般的にはEstablishment)を建てたり、ある企業が買収されて別の名前で再出発したり、ある企業の一部がスピンオフして別の企業となったときに、(大きな)新規企業としてカウントされてしまう可能性があるのだが、彼らのデータセットではこのようなことを避けることができるので、企業の年齢というものをより正確に把握できている。

4. 3.では、若くて小さい企業が「雇用増加」を生み出していると書いたが、これは、グロスの雇用創出からグロスの雇用破壊を引いたものである。一方、どれだけの雇用を生み出したかということを考える際には、グロスの雇用創出を見ることも重要である。グロスの雇用創出を見てみると、大きくて高齢の企業(従業員501人以上、年齢10歳以上)が大きな部分(40%)を生み出している。一方、新規企業(年齢0歳)が生み出しているグロスの雇用創出は20%弱である。失業者の立場にたって考えてみると、どのタイプの企業に就職するかは完全にランダムだとすると、その約半分は大きくて高齢の企業に職を見つける一方、新規企業に職を見つける者の割合は20%でしかないのである。

3.と4.を比較すると、「雇用がどのような企業によって生み出されているか」という問題に対する答えは、結構複雑であることがわかるであろう。

5. さらに、若い企業は、生き延びたものは高い成長率を示しているが、生き延びない確率も高い。つまり、若い企業は多くの雇用を生み出す一方、多くの雇用を破壊しているのである。その一方、大きくて高齢の企業は、小さくて若い企業に比べると、相対的に雇用創出も雇用破壊も少ない。ひとつ数字を挙げると、新規企業によって創出された雇用は、40%の確率で、5年以内に企業の退出によって破壊されるのである。

6. Gibrat's Law(企業の成長率は企業のサイズと無関係)は、「平均への回帰」の影響を取り除くと、小さい企業(従業員数1-4の企業。主に若い企業である)は多少高い成長率を示しているものの、それ以外の企業では成り立っている。

7. どのように雇用を創出するかのパターンは小さくて若い企業と、大きくて高齢の企業で異なっている。前者は主にすでに存在する事業所(Establishments)の拡張によって雇用を創出するが、後者は主に新しい事業所を開設することで雇用創出を行う。

最後に、彼らは、この分析では技術進歩に対する貢献を考慮していないことに言及している。究極的には雇用の創出は技術革新に依存していることを考えると、どのような企業が雇用を生み出しているか、という質問と同じくらい重要なのは、どのような企業が技術革新を生み出しているか、という質問である。