引き続き、NBER Summer InstituteのMicro Data and Macro Modelsで発表されたペーパーのメモ。今回は3日目。
Boerma and Karabarbounis, "Inferring Inequality with Home Production"
所得の不平等が注目を集めているが、不平等を考えるに当たっては所得だけ見ればいいというものではない。(著者らの例ではないが)、2人いる経済で、1人は会社で働いて給料をもらって、もう1人は農業を営んで自給自足の生活をしているとすると、(データで把握される)「所得」だけ考えると後者は所得ゼロなので、不平等が大きい用に見えるが、消費(あるいは幸福度)は前者も後者も同じかもしれない。著者らは、所得で把握されない、家計内生産(home production)も考慮すると不平等の度合いどのように異なってくるかを計算した。使ったデータは、CEX(家計レベルの消費を細かく記録したマイクロデータセット)とATUS(American Time Use Survey、家計レベルでどのように時間を使っているかを詳細に追ったマイクロデータセット)の組み合わせ。著者らの分析によると、所得の高い家計のほうがより多くの時間を家計内生産に費やして消費しているので、不平等の度合いは更に大きくなるとのこと。予想される結果は、所得が低ければその分家計内生産生産でカバーしてるように考えるのが自然なので、家計内生産も含むと不平等の度合いは小さくなるのではと考えられるがその逆の結果となっている。但し、細かくは見ていないけれども、何を家計内生産に含めるかに大きく寄るようだ、というのが議論を聞いたうえでの印象。所得が高くて、より多くの時間を子供に割くことができれば、子供との時間は家計内生産に含まれるので、家計内生産の不平等は大きく出るというのが強く出ているようだ。
Eisfeldt, Falato, and Zhang, "The Rise of Human Capitalists"
著者らは労働の対価として賃金ではなくて、会社の株やストックオプションを受け取る労働者を「人的資本家」と定義して、人的資本家がアメリカの経済に占める割合が近年高まってきていることを指摘。所得面のGDPの内訳を見たときに、労働者が受け取る賃金のシェア、および、資本が受け取るレンタル料のシェアが低下してきていることは最近注目を浴びている(例えば最近このポストやこのポストでも触れた)が、その少なくとも一部は、(主にスキルの高い)労働者が賃金という形ではなくて会社の株やストックオプションという形で報酬を受け取る傾向が高まっているからだと主張している。
Caucutt, Gunner, and Rauh, "Is Marriage for White People? Incarceration, Unemployment, and the Racial Marriage Divide"
25-54歳の白人女性で結婚したことのある(あるいは同棲している)人の割合は1970年には94%であったのが2013年には79%まで低下した一方、黒人女性で結婚した異なるひとの割合は89%から51%まで大幅に下落した。この違いは(何らかの理由で、黒人女性は黒人男性を好み、白人女性は白人男性を好むという仮定が重要だが)、黒人男性で刑務所に入っている人の割合が高まったこと、および職がない人の割合が高いことで説明できることを示した。
Bloom, Guvenen, Pistaferri, Salgado,-Ibanez, Sabelhaus, Song, "The Great Micro Moderation"
マクロ経済学の最近のビッグデータの流行を牽引するオールスターによる論文。アメリカ(及び他の国)における過去数十年の労働者間の賃金の不平等の拡大が、例えば院卒・大卒の平均給料の伸び率が高卒(あるいは高卒以下)の平均給料の伸び率を大幅に上回っていたことによる(あるいは他の、労働者間の目に見える違いで説明できる)ものなのか、あるいはここの労働者が直面するリスク(所得の不安定性)が拡大したからなのかについては、おそらくは両方とも拡大したというのが一般的に受け止められている結論だと思う。但し、これまでの分析は、誰でも利用できるが、把握されている労働者の数は比較的小さいデータセットを用いてなされてきた。この論文では、社会保障局(Social Security Administration)が持っている詳細な所得データを用いて、同じ分析を行ってみた。主要な発見は以下の4つである。(1) 性別・生まれ年・年齢が同じ労働者の間の賃金の成長率の分散(賃金の不安定性と解釈できる)は1980年から2013年の間、大きく低下した。(2) この低下は、企業間の、雇用変化率及び平均賃金上昇率の分散の低下と同時に起きている。(3) 労働者の賃金の成長率の分散の低下は、転職する労働者の割合の低下で説明できる(彼らのデータセットは個々の労働者が毎年どこで働いていたかを追うことができるすごいものなのだ)。その一方、転職した労働者、あるいは、転職しなかった労働者の賃金上昇率の分散はあまり変化していない。(4) 労働者の賃金の上昇率の分散の低下は、企業の雇用変化率の分散の低下で「説明」できる。またしても、既存の結果に対して、違うように見える結果を突きつけた論文である。
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